「日本は賃金や物価が安くなるにつれ、保守的で閉鎖的な社会になっているんじゃないかな」と指摘するのは ポップミュージシャンからジャズマンに大胆転身し、米国で活躍する大江千里氏。最近、某経済紙でのインタビューが様々な反響を呼んでいるというのですが…。
日本と米国を行ったり来たりしていると、日本の物価の安さは「お手頃でうれしい」を通り過ぎて心配になるほどだという大江さん。
「日本には500円で買える「ワンコインランチ」という言葉がありますが、ニューヨークだと5ドルじゃサンドイッチ一つだって買えません。大人気のラーメンだったら1杯20ドル(約2200円)以上。替え玉やトッピングをして、ビールも飲むと50ドル(約5500円)です。500円のお弁当の背後には、おかずをせっせと詰めている人がいるわけです。その人たちはちゃんとした時給をもらえているんだろうか。心配になります。」と、日本の物価の安さの裏側で、やはり賃金の問題を指摘。
本当ならもっとお給料をもらうべき仕事でも、文句を言わず我慢している人たちの犠牲の上に「安い日本」成り立っている構図。米国では、給料が仕事に見合わないとなると、働く人はすぐ手を抜き、さっさと辞めて、もっといいチャンスを見つけに行くという。
「お金のことを言うのは下品だ」という考え方が何となくある日本。仕事に見合った給料や報酬が絶対に必要なのに、頑張る力も出なくなるような低い給料だと、「自分ばかり負担を負わされている」という感覚に陥ってしまう。
そしてどんどん内向きで保守的になり、他人に対しても先入観でシニカルな判断をし、何だか閉鎖的。これが日本社会全体の閉塞感につながっているように思われるという大江さん。
もうかるという概念が日本と少し違う⁉ ”日本の安さや弱さ”と同時に良さも出てみてわかる…
「ポップミュージシャンをやめてニューヨークでジャズをやっていることに対して、日本からは冷笑的だったり上から目線でちゃかす感じだったりという反応をもらうことがあるのです。確かにアジア人が米国に来てジャズで食べていくのは、決して楽じゃない。でも、米国人というのは個性を重んじ、世界に一つしかないものに高い評価を与えてくれる人たちです。そういう文化であり、価値観の国です。」と、そんな日本の空気を米国にいながら感じているという。
米国でこれまでに数回、「ジャズミュージシャンには、その才能に投資してくれる人が必要なんだよ。君にはそういう人がいるかい?いないのなら、僕の名刺をあげる。僕に何かできることがあったら、メールを送ってね」などと、とても大きな企業の経営者から、声をかけてもらったことがあったそうです。ジャンルの違いはあっても、少なくとも日本では、こんなふうに声をかけられた経験はなかったという。
米国でももちろん、「もうかるかどうか」はとても大事。ただ、「経営者がお金を使って手に入れられるものは、お金だけじゃない。尊敬できる人物として世に名前を残すことだったり、自分の会社に何らかの「意味」をもたらすことだったり…」 もうかるという概念が指すものが、日本と少し違うように思ったそうです。
安くなっていく日本でただひたすら縮こまって、我慢しているよりも コロナ禍が一段落したら、とにかく1年でも2年でも日本を出てみては…。そうすれば日本の安さや弱さが分かるし、同時にいいところも見えてくるという大江さん。
「書を捨てよ町へ出よう、ついでに我慢もつまらないプライドも捨てて、世界に出てみようよ。なんたって、60歳になる僕が「大江千里の代表作はこれから生まれるんだぞ」って思って奮闘しているのです。アルバム『Letter to N.
Y.
』ではコロナ禍のさなか、全ての音を自宅で自分で弾いて、コンピューターを使って仕上げました。名付けてパンデミックジャズです。僕もあなたも、自分が思っている以上にタフでサバイブしていけるのだと思います。」至れり尽くせりの度が過ぎる!? 貧富の差が拡大する一方で年金も減る見込みしかない…
今回のこの報道には、各分野の専門家からも コメントがよせられています。
《私も大江千里さんの意見に同意します。NYの物価の高さに慣れていたつもりでしたが、先日スイスに行ってびっくり。NY以上に物価が高かった。スイスでもNYでも、移民がタクシー運転や飲食などの分野で、一生懸命に働いてお金を稼ぎ、国に送金しています。日本人も移民も、日本ではもはや稼げそうにありません。(このままでは)… 》(ニューヨーク在住ジャーナリスト/編集者・安部かすみ)
《庶民の食べ物という形でスタートした日本のラーメン文化が、価格を上げられない大きな要因となっている。「1000円の壁」が非常に高く、どのお店も人件費や原料の高騰と戦いながら苦しんでいる。安いチェーン店と本格志向の店が同じ「ラーメン」という土俵の中で語られ、価格の差がつけづらくなっているのが辛いところ 》(ラーメンライター/ミュージシャン・井手隊長)
その他にも多くの声がよせられているようでしたが…
《企業が内部留保を貯めたり役員が高額な報酬を得て従業員にしっかりと富の配分をしない今の状況を変えさせないと変わらないでしょ。貧富の差が拡大する一方で年金も減る見込みしかない中では物価上昇は厳しいだろ 》
《本当にそうです。私は今中華兼に住んでいますが、こっちでは高いので日本に帰った時になんでも買うことにしています。安い国と言われるようになってしまったのも淋しいですし、駄菓子などの元々安いものなども値下げせずに企業努力で低価格にしているというニュースを見ると悪循環だなと思います… 》
《まさにその通り。仕事の責任や量だけ増えても給与は下がるばかり。雇ってもらえるだけありがたく思え、という経営者の意識は変わらない。インフレターゲットもいいけど、給与がこの有様だから実質賃金は下がりっぱなし。いい加減政府や企業に怒っていいじゃない?権利を主張する事はおかしい、という風潮は何とかしないと 》
《日本の労働組合がずっと労働者の待遇改善に何もしてこなかった結果 連合もそうだし日教組なんて 何やってんの?と思う。憲法改正反対やら 原発反対という前に、まず労働者の待遇改善をしっかりとやらないとダメだ 》
《全くもって同感!日本の精神、至れり尽くせりの度が過ぎる。良いものを安く売りすぎる。良いものは、それなりの値段売って、健全な利益を得ることが当然でしょ》
[著作権者VONVON /無断コピー、無断転載および再配布禁止(違反時の法的措置)]