アルビノとは
アルビノとは生まれつきメラニン色素をつくる機能が損なわれている遺伝子疾患です。髪の毛や肌の色が白かったり、視覚障害を伴う人も多く、日焼けに弱い特徴を持ちます。1万~2万人に1人の割合で生まれるとされています。
日本にもアルビノの方は沢山います。今回紹介するのはその中の一人、藪本さんです。藪本さんはアルビノに生まれて複雑な思いを沢山してきたそうです。小学生のとき、子供ながらに自分の存在がタブー視されていると感じていた藪本さん。子どもなら普通、「なんで白いの?」となるのに、誰も聞いてきませんでした。それが「特別扱い」だとわかって、壁を感じたそうです。
見た目の壁
中学校に行っても、藪本さんはタブー視され続けました。そのため「このままではあかん」と思い、知り合いがほとんどいない遠方の高校に進学することにしました。電車を使って、1時間半かけて高校に通った藪本さん。「どうして私は白いのか」と自ら説明すると、タブー視されている感覚はなくなりました。中には「いつも気になってたんやけど、なんでそんな髪色なん?」って話しかけてくれる子もいました。地毛だと伝えると「えー、いいなぁ」って、うらやましがってくれて。「壁、ない!」「いいんや、これが!?」って驚いたそうです。
ただ、初めてアルビノが生きる上でのハードルになると感じたのも、高校生の時でした。周りの友人たちがアルバイトを始めました。藪本さんも何社か応募したのですが、すべて不採用。ある採用担当者には、バックヤードに連れて行かれ、「あなたの髪の毛が生まれつき白いことはわかりました。だけど、募集しているのは接客業で、仕事中にお客さんにいちいち説明することはできないでしょう」と言われることまであったそうです。
不採用が続き、こんな髪の色をしているのが悪いと藪本さんは自分を責めました。それが原因で精神的に不安定になり、2週間ほど入院してしまい、10キロほど痩せてしまったそうです。
高校を卒業後、薮本さんは芸術系の大学に入学しました。「個性の塊のような風土」で、見た目もスキンヘッドの子もいるし、みんな思い思いの服装をしていて、藪本さんの白い髪の毛も特別視されることはありませんでした。見た目なんて、話題にも上らない。まるで当たり前のことのようでしたが、アルバイトは決まらなかったそうです。
3年生の秋になると、就職活動が始まりました。働いた経験がない薮本さんは不安でいっぱいの中、大学の就職課を訪ねました。アート系の仕事に就きたかった藪本さんは、どういう仕事があるか尋ねました。すると「あなたには障害があるから、希望する仕事には就けません」と取り合ってもらえませんでした。藪本さんは「障害とは(アルビノに伴う)視覚障害を指しているんだ」と理解はしたものの、アルビノの見た目も否定されているように感じました。
それでも藪本さんは、就職課に何度か通いました。しかし、担当者の対応は変わりません。このことがきっかけで、外出する際に、パニックの発作が起きるようになってしまい、一時期、自宅から出るのも困難な状況になりました。高校生の時からバイトを落とされ続け、就職課でも「あなたには無理だ」と門前払いされ、周りの友達も染めていた髪の毛を、就活前に黒く染めていきました。黒髪の集団の中に、白髪の自分が入って行く勇気は当時の藪本さんには残っていなかったのです。
夢実現と決意
地毛を否定される体験を繰り返すうちに、薮本さんは「アルビノ同士で集まって、悩みを打ち明けられるような場所をつくりたい」と考えるようになりました。薮本さんはアルビノ当事者と家族の交流を目的とした「アルビノ・ドーナツの会」を2007年に設立しました。
現在は、代表として関西を中心に、学校で講演するほか、「見た目問題相談センター」(一般財団法人八尾市人権協会)の相談員として働いています。初めての交流会には、大阪市内に全国から20人ほどが集まりました。アルビノの多さに驚いたそうです。社会人として収入が少ないのは今もコンプレックスだと感じている藪本さんですが、アルビノ・ドーナツの会を立ち上げ、自分なりの活動を続けることができています。高校生くらいから考えていた「私にしかできないことをして生きていたい」を実現したのです。
アルビノは遺伝する可能性があります。しかし藪本さんは、アルビノの子が生まれたとしても、社会的な受け皿があれば、問題はないと考えています。そんな社会をつくりたいと思って活動もしています。ただ、これはあくまで藪本さんの考え方で、ほかのアルビノの子たちと出産の話になったとき、「疾患が遺伝してでも生むのはどうなんやろうね」と言う子もいるそうです。
藪本さんがこれまで、髪の色をどんなに周りから否定されても、黒く染めなかったの理由は社会に対する、「反骨精神」だそうです。マイノリティーに生まれたゆえに、マジョリティーの常識や圧力に反発を感じてしまい、差別から逃れるためだけに、生まれたままの髪の色を自ら否定するということができませんでした。
それでも、アルビノの人が髪を黒く染めるかどうかは、本人の意思が何より大事だと考えている藪本さん。だから就職活動のために染めるアルビノの子がいても否定しませんでした。自身の精神安定のために黒く染める人もいます。ただ、一方で、髪の白さが自分らしさだと考えて染めない人もいるし、染めることは自傷行為だと考える人さえいます。少なくとも、社会が「黒く染めろ」と強制するものではないと考えています。
問題提起
薮本さんが白い髪を理由にバイトの面接で断られたのは、10年以上も前の話です。多様性への寛容度が増していると言われる今、問題は過去の話なのでしょうか。もちろん、アルビノの人たち全員が就職活動で苦労しているわけではないものの、薮本さんは「今もまだ似た事案が起きている」と感じています。髪の毛を黒く染める選択肢を選ばなかった薮本さんに対し、「黒く染めない方が悪い」「わがままだ」と批判する人もいるかもしれません。
しかし、「黒髪であるべきだ」と要請し、多様な外見を受け入れない社会の側に問題があるのではないでしょうか。ましてや薮本さんは、オシャレで染めているわけではありません。白い髪の毛が地毛のアルビノの人たちに、黒髪というマジョリティーのルールをあてはめるのは酷だと思います。そもそも客や取引先は髪が黒くない人に対し、嫌悪感を覚えますか?
外国人労働者が増えている今、画一的な外見を求める方が、無理があるのではないかと、薮本さんの信念は、「当たり前だ」と思っている常識を揺さぶる問題提起だと思います。
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