若い人はご存知ないかもしれませんが、今から32年前の1985年にアメリカでリリースされたシングルが、アメリカ、イギリス、フランスなど、世界14か国でヒットチャートのナンバーワンとなり、話題を集めました。日本でもチャートの2位となったその曲は、「ウィーアーザワールド」。もともとは、アフリカの飢饉と貧困を救うために作られたキャンペーン・ソングでした。
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この「ウィーアーザワールド」が世界中の注目を浴びた点は、何といっても、当代一流のアーティストたちが一堂に集結したことでした。そもそもの発端は、「バナナ・ボート」などのヒット曲で知られるハリー・べラフォンテが提唱した構想で、賛同したアーティストたちは、まさに豪華のに尽きる顔ぶればかり。代表的なアーティストを挙げると、作曲に携わっているマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチー、カントリー界の大御所であり、国民的歌手とまでいわれるケニー・ロジャース、「ハイスクールはダンステリア」などのヒット曲を持ち、紅白歌合戦にも出場経験があるシンディ・ローパー、シュープリームスとして一世を風靡し、ソロ歌手としても「マホガニーのテーマ」で全米1位を獲得したダイアナ・ロス、昨年のノーベル賞受賞の記憶も新しい、フォークの神様ボブ・ディランなど。
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他にも、スティーヴィー・ワンダー、ティナ・ターナー、ビリー・ジョエル、ブルース・スプリングスティーン、ポール・サイモン、レイ・チャールズと、枚挙にいとまがありません。このレコーディングに参加したアーティストの総数は、なんと45人にものぼり、かつ豪華すぎる顔ぶれのために、公のコンサートでロング・バージョンがフルコーラスで歌われたのは、たった3回しかないのです。
「ウィーアーザワールド」はその話題性から、発売された1985年当時、アメリカ国内だけで売り上げが400万枚、収録されたアルバムは300万枚を数えました。最終的には、アメリカだけでもシングルを750万枚売り上げ、アルバムと、レコーディング時に撮影されたドキュメンタリーがおさめられたビデオの売り上げ額の合計収入は6300万ドル、当時の日本円にして、163億8000万円にもなったのです。そして、この売り上げと、この楽曲にまつわるすべての印税は、チャリティーとして全額寄付されました。
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海外では、いわゆるセレブたちがボランティアとして、貧しき者に施しを与えることが、富める者の義務であるという風潮があります。有名なアメリカ文学の「あしながおじさん」は、孤児である主人公の女の子と、彼女に対し、見返りを求めることなく学費や生活費を与える富豪との心の交流を描いた作品です。同じ精神が、彼ら有名アーティストにも宿っていて、当時、世界で問題視されていた、アフリカの飢餓へ手を差し伸べるチャリティーが実現することとなったのでしょう。
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ちなみに、「ウィーアーザワールド」の主旨に賛同しながらも、当日にトラブルに巻き込まれたために、レコーディングに参加できなかった有名アーティストがいます。先ごろ惜しくも亡くなったプリンスです。そのために、彼が歌うはずだったソロ・パートはマイケル・ジャクソンが担当することになりました。しかし、プリンスは、レコーディングに参加できなかった代わりに、アルバムに楽曲を提供し、さらに競合しないために、自らのアルバムの発売日を遅らせるという決断をしました。見上げた心意気といわざるを得ません。
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「ウィーアーザワールド」は、覚えやすい歌詞と、高潔な主旨、そして名だたる豪華アーティストたちの参加によって、人間の善意が集結すれば、素晴らしい成果が得られることを教えてくれます。