昨今、問題となっている”中高年による引きこもり”。これに対し、世間では「自己の責任なのではないか」との見方がされています。しかし、精神科医として30年前から不登校やひきこもりの問題に取り組んできた、筑波大学・社会精神保健学教授の斎藤環氏はこう言及しています。
「ひきこもりが自己責任だという捉え方は明らかに間違いです。長引くひきこもりは、家族の思惑や社会のプレッシャーや本人の苦しさなど、さまざまな要因が複合して成立する現象で、自分の意思決定ではありません。どこの家庭でも、どんな年齢の誰にでも起こりうる現象ですから、世間は寛容になってもらいたいと思います」
“中高年ひきこもり”の現状
これまで政府は39歳以下の「若者」のみを対象に、ひきこもり調査を行なってきました。しかし、40~64歳の「中年」を対象に調査が行われ、その結果、全国で約61万3000人もの「中高年ひきこもり」がいることが分かったのです。この内閣府が発表した推計値は、30代以下のひきこもりの推計値、約54万人をも超える数となっており、世間に大きな衝撃を与えています。
ひきこもりの人は、自ら外に助けを求めることも少なく、その現状を把握し対策していくことは難しいとされています。そのため、斎藤氏らが20年前から「ひきこもり高齢化」に警鐘を鳴らしてきたにもかかわらず、国の調査や対策は現在に至るまで後回しにされてきました。その間にも「中高年ひきこもり」の現状は深刻化していると斎藤氏は話します。point 233 | 1
「中高年のひきこもりでは、1日、何もしていない人が半分ぐらいいます。ベッドで横になったり、ソファに座っていたり。頭の中でいろいろ考えて葛藤しているから、退屈は感じないそうです。部屋に籠ってネットやゲームに没頭している印象を持たれがちですが、それは実は少数派。ひきこもっている人は自責的になっており、自分には娯楽を楽しむ資格はないという思いがあるようです。思い詰めすぎた結果、鬱などを発症してしまうケースもあります」point 272 | 1
2030年に「ひきこりバッシング」が起こる
斎藤氏によると、現在50歳代半ばのひきこもりが一斉に年金受給開始年齢に達する2030年には大きな問題を抱えていると指摘しています。
「わが子の将来を案じる親は、自分が死ぬまで、子の年金保険料を払い続けているはずです。その子たちが年金を受給し始めたとき、年金制度は支払いに耐えられるでしょうか。また、年金の財源は半分が税金です。一般の人から『税金を払ってないくせに年金をもらうのはずるいじゃないか』という“ひきこもりバッシング”が起こることを、私は強く懸念しています。生活保護に頼る場合も同じです。『ひきこもったのは自己責任なのだから、死んでも仕方ない』との論調が、世の中の主流になってしまうことを危惧します」point 241 | 1
ただでさえ周りに助けを求められず、政府からの対策も整っていない「中高年のひきこもり」に、世間からバッシングを受けるようなことは避けなくてはならないと懸念する斎藤氏。さらにその先に、非常に深刻な問題が予測されると話します。
「私が案じるのは、そもそもひきこもりの半数以上は、年金や生活保護の受給申請をしないかもしれないということです。役所で手続きをする生活能力の問題もあるし、何より恥だと感じて申請しない人も多いのではないか。その場合、あとは孤独死しかありません。やがて“孤独死大量発生時代”がやってくるでしょう」point 216 | 1
中高年ひきこもりと向き合う
このニュースを受けて、ネット上では様々な意見が交わされています。
「ただ「問題になっている」だけでなく何か提案を、と自分も思うのですが、どうしたら良いのか自分にも解決策が浮かばない。外に出なくても食べていける仕事は増えているので、それが何かのきっかけにできないか。」
「日本の終わりを物語るような状況だ。自己責任という言葉とともに、他人を責める人が増えた。富裕層でもなく、その辺に多くいる高齢者に見られるような、タカリのような事をしながら他人を叩くクズが増えたんだろう。」
「厳しい事言っているのは、事業化したのに「ひきこもり様」がいらしてくれない!って嘆いている方々では?それを支援していたのがひきこもり・ニートを差別していた番組。実に単純明快な電波利用のカネ儲け構造だ。」
「平等って教えた義務教育。差別が押し寄せる現実社会。受け止めきれない精神は破壊する」
「世間からつまはじきにされ引きこもったのだから、今更バッシングされても痛くもかゆくもない。刺激するとテロリスト予備軍になり、社会が代償を支払うことになる。」
ようやく今回の全国調査で「中高年ひきこもり」の実態に光があたりましたが、問題は募るばかり。これを機に政府は対策へ乗り出すのでしょうか。