サルヴァドール・ダリについて
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前世紀の初頭、なんの前触れもなく、スペイン東北部の田舎町に降臨した超ド級のトンデモ画家、サルヴァドール・ダリ(Salvador Dali/1904─1989)─。おそらく彼は、20世紀の産んだ最も有名な人間の1人にちがいない。だが、それにはワケがあった。確かに、彼の芸術は意味深でハイ・グレードだが、その高名は奇妙なパーソナリティやファッション・センス、そしてトレード・マークのあの八の字ヒゲなど、要するに、その途方も無いショーマン・シップに由来していたのではないだろうか?それにしても…彼は気がヘンだったのだろうか、それとも、そうしたものが彼一流の「芸術的な生き方」だったのか?point 354 | 1
1、生まれ変わった残りカス?
ダリの奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)な人生を解く鍵は、きっと、そのユニーク過ぎる幼年期の薄明の中にこそ、潜んでいる。まだ、ダリが生まれる前のこと─―。彼の母親は、もう1人のサルヴァドール・ダリを生んでいた…。だが、悲しいことに、第1のサルヴァドールは22カ月あまりで、胃の感染症のため世を去った。第2のサルヴァドール ─つまり、わたしたちのダリ─ が生まれたのは、そのカッキリ9カ月後だった。しかもセカンドはファーストと瓜二つだったため、両親は彼を死んだ息子の生まれ変わりではないかと考えるようになったそうだ。point 270 | 1
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ダリが5歳になった時、両親は彼を、死んだファースト・サルヴァドールの墓前に連れて行って、「わたしたちはお前が、お兄さんの生まれ変わりだと信じている」と語りかけた。これはダリにとって、頭がグラグラするほどの大ショックだったらしい。「ぼくは、一度生まれて死んだ人間の再来なんだ。でも…もし、ぼくがなんでもない人間なら、そのまま死んでいるはずだよね。なのに蘇ったということは、選ばれたってことなんじゃないかな? ぼくの名前…。サルヴァドールだし」ちなみに、Salvadorはスペイン語とポルトガル語で救世主、イエス・キリストを意味する。そう、イエスは死後3日して、復活を果たす。point 351 | 1
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その後のダリの営みのあちらこちらには、「自分の最良の部分」と信じる死んだ兄へのほのめかしが含まれているようだ。彼はこんな風に考えたのかもしれない。「兄ダリの中には善と悪がまじりあっていた。生まれ変わりの自分がこの世に持ってきたのは、そのうち、悪の部分だけだった。それは兄ダリが、良いものをぼくに手渡さなかったからだ」幼いダリは、こうして、〈復活した不完全なイエス〉、〈黒いキリスト〉としての自分を再発見する…。このトラウマを思わせる内的体験から、同じ年に起きたいくつかの奇妙な出来事を説明できるかもしれない。point 320 | 1
2、幼年時代のサディズム
ダリにとって、幼い時分から、快楽と苦痛はほとんど同じものだった。少なくともこのことは、はっきりした理由もないのに、やたら他人を攻撃した彼の子ども時代の謎を解き明かしてくれるだろう。中でも最悪のエピソードは、友人と並んで橋を渡ろうとした際、らんかんの一部がもげているのに気づいたときに起こった。周りに誰もいないのを確かめると、ダリは友人を川面に突き落としたのだ。相手の少年はほぼ5メートル下の、尖った岩の上に落ちて、重症を負った。駆けつけた母親が傷ついた息子の手当をする横で、5歳のダリは静かにお座りして、笑顔を浮かべながらボウルからサクランボウを食べつづけた。ボウルの水は、息子の飛び跳ねた血で紅くにごっていたというのに。ダリに罪悪感? そんなものはサラサラなかったにちがいない。point 352 | 1
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また、やはり5歳のときのこと─。ダリが、庭で羽をバタつかせていた傷ついたコウモリの世話をしていると、またもや奇妙な事件が発生した。ある日、彼はそのコウモリに蟻が群がって、ゆっくり食べているのに気がついた。そして、ダリはなんと、かすかに震えるコウモリをひったくると、蟻がついたまま、口の中に入れて、音を立てて、噛み砕いたのだった!
3、華麗にしてド派手なパフォーマンス
ダリは毎朝、覚めるたびに、画家は当然としても作家、科学者など、その日ごとに、自分がなりたいものになろうとした。彼はなによりもショー・マンであるからだ。彼のそんなスタントぶりは、その芸術よりもずっと印象的な場合がある。例えばダリは1932年に、古風な潜水服に身を包んで、講演を行うとしたことがある。その結果、窒息寸前になったが、決してスーツを脱ごうとはしなかった。また1955年のこと、彼はカリフラワーを満載したロールスロイスで、スピーチ会場に乗りつけもした。これは当時、ダリがその形に強く心をひかれていたためだ。彼によれば、微細な同じ形=構造が無限に増殖を繰り返して生成するカリフラワーは、それ自体が、まさに宇宙生成のシンボルとも呼べるものなのだった。後のフラクタル幾何学を、ダリはある意味、先取りしていたのかも。point 375 | 1
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また、それを上回る、こんなエピソードもある。自分の本、「サルヴァドール・ダリの世界」を売りさばこうと、ダリはマンハッタンのとある書店の真ん中に、病院用ベッドを持ちこんだ。そして自らそこに横たわると、まわりには彼の脳波を計るニセの医者と看護婦をはべらせてみせた。なんと、これは、本を買ったお客はもれなく、ダリの脳波のコピーがもらえるという珍奇なサーヴィスだったのだ。