「日常生活の中にこそ喜びや驚き、奇跡がある」。高畑勲監督の全作品には、この哲学が貫かれていました。
そんな長年にわたり数々の名作アニメーションを世に送り出し続けていた高畑 監督が、2018年4月5日(木)午前1時19分、帝京大学医学部附属病院にて、ご逝去されました。
高畑監督の訃報(ふほう)を受け、日本テレビのレギュラー映画枠「金曜ロードSHOW!」では13日に放送予定だった「名探偵コナン」の劇場版を、高畑監督の代表作「火垂るの墓」に変更しました。
高畑勲監督 プロフィール
生年月日: 1935年10月29日
生まれ: 日本 三重県 伊勢市
『太陽の王子 ホルスの大冒険』
『火垂るの墓』
『おもひでぽろぽろ』
『平成狸合戦ぽんぽこ』
『かぐや姫の物語』
2018年4月5日(木)午前1時19分、帝京大学医学部附属病院にて、ご逝去されました。死因は肺がんで、享年82歳でした。
日本テレビが予定にはなかった「火垂るの墓」を放送
日本テレビ系列で毎週金曜午後9時から放送されている映画枠「金曜ロードSHOW!」。
6日の放送の次週予告では、当初予定されていた「名探偵コナン」の劇場版ではなく、高畑監督の代表作「火垂るの墓」の映像が流されました。
画面右上には、「高畑勲監督追悼」という文字が。
「金曜ロードSHOW!」を担当する日本テレビプロデューサーの谷生俊治(たにお・としはる)さん(44)は、 「長年にわたり、数々の作品で、お世話になってきた。高畑監督の訃報に接し、番組として何ができるかを考え、最大限の追悼と敬意を込めました」と語っています。
高畑監督が亡くなったのは5日木曜日の未明。社内での協議を経て、わずか半日で放送番組を変え、予告編を準備したそうです。
世界中からも監督の死を悼む声
大の親仏家だった高畑監督の訃報を受け、フランス政府はいち早く追悼メッセージを寄せ、フランスでは急遽その夜に追悼番組として『火垂るの墓』が放映されました。
アメリカのメディアでは「アニメ界の巨匠」「漫画アニメの開拓者」「アニメーション界の伝説」と高畑監督を讃え、イギリスのガーディアン紙ではトップ記事に、フランスのル・モンド紙では特集ページを掲載。その他にもイタリア、スウェーデン、スペイン、ポーランド、ベトナムなど世界中で訃報が報じられ、その後も国内外から続々と監督の死を悼む言葉が寄せられています。
高畑監督が教えてくれた異国の風景
高畑監督はそのリアリズム志向から、国内外を問わないロケハンや徹底的に調べ上げた資料を元にリアリズムあふれるアニメを構築しました。そこにあるのは原作に対する誠実さ。そしてなんといっても映像表現への強いこだわりです。とことん原作に向き合い、そして今までにない試みを加えて新しい物語を誕生させるのが、高畑監督のやり方でした。
今となってはアニメ映画の監督・演出家という肩書きが定着していますが、その才能はテレビアニメの演出時代から培われたもの。手掛けたテレビ作品は「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」に加え、「母をたずねて三千里」「フランダースの犬」「母をたずねて三千里」「ペリーヌ物語」などなど。
当時、リアルタイムで視聴していた私のような子供たちが、まだ見たことのない雄大な自然や異国の空気、憧れのどこか懐かしい街並みの様子を知ることができたのは、全て、といっても過言ではないほど高畑監督の徹底した調査と緻密なこだわりのおかげです。
最後に
高畑監督は一貫して「生きる」ということをテーマに作品を作り続けました。
自由意志と公平を愛し、集団意識の良さの一方でその恐怖と危険性を描いた人でした。
そしてなにより、アニメ作りを心から愛している人でした。
遺作となった『かぐや姫の物語』では、完成時に監督が「僕が今OKと言ったら映画は完成ですか?」とスタッフに訊ね、そうですと答えられると「まだやっていたい」と言ったというエピソードもあるほどです。
「僕は自分には才能がないと思っています。特に横で宮崎駿を見ているとね。彼は天才。だから僕は違うものを作ろうという発想に至りました。大切なことは、アニメが好きであること。そして自分でやったことが少しでも前進していると自覚すること」
高畑監督の作品は、これからも世代を変えて愛されていくでしょう。