今春、中学生になったばかりのクルド人の少女・シェリルさん（仮名・12歳）は、小学校で背中に赤紫色のあざと多数の擦り傷が残るほどの暴力的なひどいいじめにあっていたと言います。母親のファルマさん（仮名・34歳）に見守られながら、思い出すのも辛い記憶を「学校に変わってほしい」という思いで記者の取材に答えています。

教師は何もしてくれない

シェリルさん一家が来日したのは2009年の時。国を持たない最大の民族といわれるクルド人は、トルコから逃れても日本の難民審査になかなか通らず、多くは難民認定申請中あるいは仮放免という不安定な状況の人がほとんどとなっています。シェリルさんの父親のアシさん（仮名・39歳）も未だ難民申請中で入国管理局の厳しい監督下に置かれています。

その中でも埼玉県川口市には、日本国内に住んでいるクルド人約2000人のうち1200人ほどが住んでいるため、シェリルさん家族も埼玉県に移住してきたそうです。

外で働く父親のアシさんや日本で育つシェリルさんは、日常的に日本語を使うためすぐに上達して行きましたが、母親のファルマさんはなかなか難しく、今でも母国語が中心の生活を送っているということです。

２歳の時に日本にやってきたシェリルさんですが、めでたく小学校に入学することになり、全校児童442人のうち48人が外国人（うちクルド人は35人）という埼玉県川口市の市立芝中央小学校に入学しました。しかし、間も無くしてシェリルさんへのいじめが始まります。

当時のいじめの状況にいてシェリルさんはこう話しています。

「クラスの半数以上から変なあだ名で呼ばれていました。クルド人の名前をからかうようなあだ名です。すごく嫌だったけど、校長先生が励ましてくれて元気づけてくれたから頑張ろうと思えた」

当時の校長はいじめ問題に熱心に取り組んでくれたため、シェリルさんへのいじめが続く中でも、校を休むことはなかったと話すシェリルさん。しかし、昨年の４月に現在の校長が赴任してきてから事態が悪化してしまいます。

「5月にクラスの女の子たちにトイレに2時間も閉じ込められました。担任に助けは求めてない。だって何もしてくれないってわかってるから」

閉じ込められてしまった原因は、アイドルグループをめぐってちょっとした口論をしたことだったと言います。それだけで2時間も少女をトイレに閉じ込め、さらにそれを知ってもなお教師が応しないという異常な状況。一体どういうことなのでしょうか。

いじめるのもいじめられるのも”お互い様”

学校側の無関心な対応や、一向に無くならないシェリルさんへのいじめの毎日でも、なんとか卒業まで頑張ろうと通い続けていましたが、今年の月29日、命の危険を感じて登校できなくなる事件が起きてしまいます。

「4時間目の体育の授業で男女混合でサッカーをやっていました。そこでも嫌がらせをされて、押されたりしました。それで転んで痛くて走れなくなって端っこを歩いていたらチームリーダーの男子の靴が壊れてて、私のせいにされて足を出せと言われてみんなから蹴られた。先生に言ったけど“お互いさま”と言われて保健室に行きました」

帰宅後に家族が撮影したシェリルさんのケガの写真を見ると、明らかな暴行痕が見てとれます。保健室の先生はこれほどのケガを見てどう対処したのでしょうか。

「保健室の先生からは“今日はさんざんだね”と言われました」

そんな慰めの言葉をかけるだけで解決できるほどの怪我ではないことは一目瞭然ですが、特に何の治療もなく給食の時間には教室に戻ることとなったシェリルさん。
しかし、目に飛び込んできたのは、倒されている自分の机と椅子でした。ひそひそ笑われ陰口を言われながらも机と椅子を戻して座ろうとしたとき、うしろから誰かに椅子を引っ張られて転倒してしまいます。

「転んだ私は取り囲まれて何度も何度も蹴られました。私もう死んじゃうのかな、と思った。恐怖を感じました……」

このとき、引き止めるどころか主犯格とみられる加害男児に向けて「(シェリルさんを蹴る)お前の足が腐るから蹴るのやめろよー」などとはやし立てる児童もいたと言います。絶望の中、帰宅したシェリルさんは、翌日病院に行き、事情を聞くために母親と学校に行きましたが、そこで待っていたのは教頭の心ない言葉だったそうです。

「いじめられるのは“心が弱いから”と言われました。ケガをしているのは私なのに、ここでもやっぱり“お互いさま”って言われた。お互いさまってなんなんですか」

翌日からシェリルさんは学校側が何も対応してくれないことを感じ、自身の身を守るために登校することをやめたそうです。
「（自分がいじめられているとき）お母さん、すごく泣いていてつらかった」

とシェリルさんは自分がいじめにあって辛いはずなのに、家族のことが心配で辛かったと話しました。さらに、この教頭の発言をめぐっては学校側の対応は二転三転することとなります。

「私が信頼している日本人女性に話したら怒ってくれて、学校に説明を求めてくれました。そうしたら“そんな発言はしていない”とか言いだして。何度も追及していくと“そもそも母親に会っていない”という。もうおかしいんです。言っていることが」

いじめの被害者を問題児扱い

シェリルさんが学校を休むようになってからも、学校側は無責任にもシェリルさんを傷つけ続けます。

「先生たちは休んでいるときに訪問してきたりしたけど私を学校に来させたいという感じではなく、男子児童は悪くないと言いたい感じだった。私のせいで問題が大きくなっているみたいな言い方をされました」

さらに、問題となった加害男児の親も、自身の子どもの暴力行為を叱るどころか、シェリルさんを責めたと言います。それでも卒業式だけは参加しようとシェリルさんは勇気を振り絞って3月12日の卒業式に出席しました。

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「もうその日は緊張しまくりでした。ドキドキして何か嫌なことされないかびくびくしてほかの児童とは別の図工室で卒業式を待っていました。卒業式が始まるとき、男子児童から悪口をたくさん言われました。私の服装を“うんこ”と言ったり、外国人である私の顔の特徴をバカにしたことをたくさん叫んできました。私はもう悲しくなってしまって図工室に戻りうつぶせになって泣いてしまいました」point 236 | 1

そこで、一連のいじめに行為に対して加害男児からの謝罪を求めたシェリルさん親子ですが、校長は“中立の立場”であると説明したと言います。また、校長室に呼ばれた加害男児は泣きながら“お前のせいだ！ 殺すぞ”とシェリルさんに言ってきたと話しています。

「殺すぞと言った男子のことを大人は誰も注意しませんでした。男子も“悪口なんか言っていない”と言うし、男子のお母さんも怒鳴ってきて。校長先生も“どうしたいの？”と聞いてきて。謝ってもらいたかったけど私は“もういいです”というのが精いっぱいでした。本当に悲しかった」

卒業式の日、シェリルさんはポケットにビデオカメラを入れていたため、そこには男児からの暴言がしっかりと録音されていました。“うんこ！”“鼻伸びた”などと外国人特有の高い鼻をからかっていると思われる、差別的なひどい内容の悪口をこれでもかと浴びせられていました。

いじめのあった学校へ直撃

シェリルさん家族を取材した記者は、芝中央小学校の鈴木彰典校長に真意を尋ねるため直撃しました。

記者：いじめはあったのか

校長：いじめはありました

記者：シェリルさんに謝罪はしないのか？

校長：非常につらい思いをさせてしまったことに対しまして、改めてお詫びにうかがう予定です

記者：いじめられて泣いている少女に対して“どうしたいの？”という声かけは不適切では？

校長：“どうする？”と心配する気持ちをもって伝えたつもりですが“どうしたいの？”と他人事のように伝わってしまったとしたら、大変申し訳なく思います

暴力やトイレ監禁はいじめの域を超えた犯罪です。子供たちに助けを差し伸べるどころか、問題児扱いまでするという教育者としてあるまじき対応に驚きを隠せません。ましてや「お互いさま」と判断することはあってはならないことです。昨今、学校でのいじめ問題が頻繁に取り上げられていますが、いじめ被害への改善は見込めるのでしょうか。