ストロング系チューハイは、ビールや発泡酒よりも安く、多くの商品でアルコール度数が一般的なビールの2倍近い9%と、「安く酔える」ことが人気を博し、販売量が急増しているようですが…
その一方で、求めやすい価格に加え、味を調え飲みやすくしているために、大量のアルコールを簡単に摂取できてしまうことが 問題視されてきました。
ジュースのような飲みやすさでビールの倍近い濃度?
「『危険ドラッグ』として規制した方がよいのではないか。半ば本気でそう思うことがよくあります」
この投稿の主は、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦・薬物依存研究部部長。アルコール依存対策の最前線に立つ影響力のある人物の投稿とあって、改めて注目を浴びました。
「結局あれは『お酒』というよりも、単に人工甘味料を加えたエチルアルコール=薬物なのです。そして、ジュースのような飲みやすさのせいで、ふだんお酒を飲まない人や、『自分は飲めない』と思い込んでいる人でもグイグイいけます。そうした人たちが、ビールの倍近い濃度のアルコールをビール並みかそれ以上の早いペースで摂取すればどうなるのか。ただでさえ人類最古にして最悪の薬物といわれているアルコールですが、その害を最大限に引き出す危険な摂取法です」 と松本氏はこのように指摘します。
市場の半数近くを占め 過去10年でおよそ4倍に拡大
サントリースピリッツが19年3月に発表した調査リポートでは、缶チューハイなど「RTD(レディ・トゥ・ドリンク)」と呼ばれる商品の数量ベースの市場規模は、19年まで12年連続の拡大を見込みます。
18年まで14年連続で市場が縮小したビール類とは対照的。中でも、アルコール度数が7%以上の商品は、過去10年でおよそ4倍に拡大し、市場の半数近くを占めるまでになったのです。
また 生産年齢人口の減少に伴い、国内の酒類市場は縮小傾向が続くのも現実です。若い世代を中心に、ビールのような苦みの強い飲料よりも、甘いサワー系の飲料を好む人も増えているようです。
さらに、長引く低成長の影響を酒類業界はもろに受けてきた。業務用市場では、ビールなどを原価すれすれの価格で提供する格安居酒屋がしのぎを削るほか、日本フードサービス協会の調査では国内の「パブレストラン・居酒屋」業態の全店売上高は18年まで10年連続で前年割れとなりました。節約志向が強まり、「家飲み」のニーズが拡大していることが背景にあるともいえます。
19年10月の消費増税がそれに拍車をかけています。安く酔えるストロング系チューハイは、こうして固くなった消費者の財布のひもをほどく切り札だったともいえそうです。
日本特有の酒税体系もストロング系へと駆り立て
「公衆衛生的アプローチを考えれば、本来、酒税は含有されるアルコール度数の上昇に伴って傾斜すべきです。それなのに、『税収ありき』の国の二転三転する方針にメーカーが追い詰められて、確実におかしな事態を引き起こしています」 松本氏もこう指摘します。
日本の酒税は、「その他の発泡性酒類」に該当する「第3のビール」や缶チューハイは、350ml当たり28円。同77円のビールや同47円の発泡酒に比べて格段に安いのです。
酒税法の改正によって、これらの税率は20年10月から段階的に変更され、26年には税額が同55円に一本化されるが、それまでは、アルコール度数が高いストロング系チューハイが、ビールより低税率で飲める状況が続いてます。
「家計にやさしい商品」とみなす肯定派と 倫理面で問題があるとする否定派とが、どこでバランスをとるのか、市場動向を注視する必要がありそうです。
今世界では、WHO(世界保健機関)を中心にアルコール規制強化の流れが加速しており、日本も対応を迫られています。
アルコール市場が健全に発展する方策を真剣に議論することが求められているようです。