先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症の患者会「トーチの会」の代表を務める渡邊智美さん。脳に障がいを持って生まれたお子さんを育てながら、一人でも多くの妊婦さんに妊娠中の感染症について正しい知識を持ってもらえるよう、日々奮闘しています。
2011年に長女を出産した渡邊智美さん。おなかの赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症と担当医から告げられたのは、妊娠30週のころでした。健診の超音波検査で、脳に異常があることがわかり、詳しい検査をすると、渡邊智美さんが直近の数カ月でトキソプラズマに感染したことが原因で、おなかの赤ちゃんにも感染して発症したということがわかりました。渡邊智美さん自身、トキソプラズマは猫などの動物に気をつけていれば大丈夫だと思っていたので、「猫も飼っていない私が、どうして?」という疑問しかなかったそうです。
しかし、加熱不足の肉を食べることでも感染することを知り、妊娠がわかってから知人らと焼き肉屋でお祝いをし、ユッケやレバ刺しなどを食べたことを思い出しました。
あの1回がなければ、もしかして赤ちゃんは感染しなかったかもしれない…知識がなかったせいで赤ちゃんを病気にしてしまった…と渡邊智美さんは後悔と自責の念で苦しみました。当時はまだユッケやレバ刺しがお店で普通に食べられました。初めにかかっていた産婦人科ではトキソプラズマの抗体検査は希望しても「まれな病気だからやる必要はない」と言われ、調べてもらえなかったので、そこで正しい情報、知識を手に入れることができなかったことを非常に悔しく思いました。
赤ちゃんへの感染がわかってからは、後悔と不安ばかりで、トキソプラズマについてインターネットで検索ばかりして過ごしていましたが、検索しても知りたい情報がほとんど出てきませんでした。また、出産後は、赤ちゃんに薬を飲ませる必要があるのですが、その薬は日本では販売されていないので、海外から自分で個人輸入をして購入するよう病院から指示されました。また、その副作用を抑える薬も、先天性トキソプラズマ症に対して使用する場合は、普通だったら保険適用にはならず非常に高額になるので、なんとかできないかと病院からかけ合ってもらったり、困ることの連続でした。ただでさえ初めての育児でパニック状態なのに、頼れる情報がなく、すべてが手探りでした。それで、なぜ、こんなに情報がないんだろうという思いと、妊娠中の人が感染しないように気をつけるべきことが妊婦さんたちに知られていないということも気になり、患者会を立ち上げることにしたそうです。
●先天性トキソプラズマ症の感染経路は?
すべての哺乳類・鳥類の肉、土や猫のふんなどに存在する「トキソプラズマ」という寄生虫が原因。加熱が不十分な肉を食べたり、トキソプラズマが生息する土で収穫された未洗浄の野菜を食べたり、感染したばかりの猫のトイレ掃除やガーデニングで猫のふんが混じった土に触れることなどが原因で感染することがあります。
●先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんへの影響は?
妊娠中に初めて感染すると、赤ちゃんは先天性トキソプラズマ症になり、流産・死産につながったり、目や脳に障がいが生じたり、発達に影響を及ぼす危険性があります。日本では毎年数百人の赤ちゃんが先天感染して何らかの症状を持って生まれていると推定されています。
●先天性サイトメガロウイルス感染症の感染経路は?
サイトメガロウイルスは、いたるところにある、ありふれたウイルス。母乳・唾液・尿・血液を介して子どものうちに感染したり、性行為で感染するなどして、日本では成人女性の約70%がすでに感染し、抗体を持っています。とくに抗体を持っていない場合、実は子どもを介しての感染が多いので、第2子以降を妊娠中のママが、上の子から感染してしまうケースが多数。
●先天性サイトメガロウイルス感染症の赤ちゃんへの影響は?
トキソプラズマと同様、妊娠中に感染すると、赤ちゃんにまで感染が及ぶことが。流産や死産につながったり、脳や聴力に障がいが生じたり、発達に影響を及ぼすことがあります。日本では毎年3000人以上の赤ちゃんが先天感染して生まれていて、そのうちなんらかの症状が出ている赤ちゃんが1000人くらいと推定されています。
トキソプラズマもサイトメガロウイルスも抗体がない場合は、とくに感染しないように注意が必要になってくるので、産院によっては、妊娠初期の妊婦健診の血液検査で抗体の有無を調べてくれることもあります。ただし、以前よりも検査をしてくれる産院は増えていますが説明がたりなかったり、検査結果の解釈を間違えていたり、検査自体を実施していない産院もあるので、妊婦さん自身が普段の生活で感染しないように注意をする必要があります。
【妊娠中の感染予防のための注意事項-11か条】
1. 石鹸と流水でよく手を洗ってください
2. 小さな子どもとのフォークやコップの共有、食べ残しを食べることはやめましょう
3. 肉はしっかり中心部まで加熱してください
4.
殺菌されていないミルクや、それらから作られた乳製品は避けましょう
5. 汚れたネコのトイレに触れたり、掃除をするのはやめましょう
6. げっ歯類(ネズミの仲間たち)やそれらの排せつ物(尿、糞)に触れないようにしましょう
7.
妊娠中の性行為の際には、コンドームをつけましょう
8. 母子感染症の原因となる感染症について検査しましょう
9. B群溶血性レンサ球菌の保菌者であるか検査してもらいましょう
10. ワクチンが存在する感染症(たとえば、麻疹、風疹や水痘)から自分と胎児の身を守るために、ワクチンを打ちましょう
11.
自分が十分な抗体を持っていない場合、水痘や風疹などに感染している人には近づかないようにしましょう
ネット上では、さまざまなコメントが上がっています。
・確かに産院で特に指導されなかった。案外知らない妊婦さんが多いからネットでこういった記事が発信されるのは良いことですね。妊婦さんでなく、周りの方が知っているだけで助言出来たりするので家族の方も一緒に考えて欲しいと思います。
・私はこの方より前に出産しましたが妊娠中に担当の産科医にも勿論、本やネットでも妊婦が生肉を避けるべきだと何度も目にしました。全く知らなかったのが、ちょっとびっくり。
・妊婦への指導はもちろんだけど、おばあちゃんになる人への指導も本当に大切です。『気にしすぎ』『少しくらいなら大丈夫』『私の頃はそんなの無かった』これがあの人たちの決まり文句です。