和歌山市加納のアパートで６月、鶴崎心桜（こころ）さん（当時１６歳）が亡くなった事件で、心桜さんは胸部など複数箇所を骨折していたことが、捜査関係者への取材でわかりました。古いあざもあり、和歌山県警は家庭内で日常的に虐待を受けていたとみて関係者から事情を聞いています。心桜さんは中学校から不登校になり、友人に「家に帰りたくない」と漏らしていたそうです。９日で事件から２か月になりますが、心桜さんに何があったのでしょうか。
６月９日午後２時２０分頃、外出先から自宅に戻った母親（当時３７歳）から「長女が血のような黒いものを吐いて倒れている」と、１１９番がありました。救急隊員が駆けつけると、心桜さんが、居間であおむけになり倒れていました。心桜さんは母親の再婚相手の男性に付き添われて搬送されましたが、その後、死亡が確認されました。司法解剖の結果、死因は全身打撲による外傷性ショックでした。あばら骨など複数を骨折しており、あざは全身に広がっていました。外部からの侵入の跡もなく、県警は心桜さんが家庭内で激しい虐待を受けていたとしています。
１１９番から約１時間４０分後、自宅から北約２０キロ離れた大阪府泉佐野市の関空連絡橋周辺の海面で、心桜さんの母親と妹（当時４歳）の遺体が見つかりました。橋の上には乗っていた車が止められていて、目撃者の証言などから、無理心中とされています。車内には遺書はなく、動機は不明です。病院に付き添っていた男性も９日夜、カフェインを大量摂取しましたが、一命をとりとめました。市消防局によると、男性は「嫌なことがあったので、自殺しようと思った」と話していたといいます。
心桜さんは事件当時、母親と、２０１５年に再婚した男性、２人の間に生まれた妹との４人暮らしでした。県警は、家庭内で唯一の生存者である男性を任意で事情聴取を行うなど、県警は心桜さんが亡くなった経緯について、慎重に捜査しています。心桜さんの友人は「ここ」と呼ばれていた心桜さんのことを、「ここはよく笑う、みんなのお姉さんのような存在でした」と言って目に涙を浮かべました。
友人らによると、心桜さんの両親は１３年５月に離婚し、心桜さんは、和歌山市内で父親と２人で同居することになりました。親子で仲良く家事を分担していたそうですが、父親は仕事のため家を空けることも多く、一人で過ごす時間が増えたそうです。再び大きく生活環境が変化したのは中学２年の頃に、母親の元に引き取られたためでした。心桜さんは周囲に「妹の世話をしなければならなくなった」と説明していたそうです。
その頃から中学校を休みがちになり、友人には「学校に行きたいが行けない」「家に帰りたくない」と漏らすこともあったそうです。友人は「踏み込んだらいけないと思い、理由は聞けなかった。どこか無理をしているような感じがあった」と振り返りました。心桜さんは将来の進路について「卒業後は、兵庫県の専門学校に行きたい」と語っていたそうです。しかし、その願いはかなうことはありませんでした。捜査関係者らによると、自宅には妹のおもちゃや絵本は数多くあったが、心桜さんの持ち物はほとんどなかったといいます。近所の住民は「母親と妹が一緒にいるところはよく見かけたが、心桜さんの姿はほとんど見たことがない。３人家族かと思っていた」と話しました。