2017年も、残すところあと2か月足らずとなりました。来年はサッカー・ワールドカップのロシア大会などビッグイベントが控えていますが、日本が誇る伝統の歌舞伎界でも、一大行事が控えています。それが、2018年1月とに執り行われる、高麗屋3代揃っての襲名披露です。これは実に37年ぶりのことで、何とその時も、高麗屋の襲名披露でした。まさに画期的であると言わざるを得ません。
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現在9代目となる松本幸四郎さんが、2代目松本白鸚に、7代目市川染五郎さんが10代目松本幸四郎に、そして4代目松本金太郎さんが、8代目市川染五郎を襲名します。1人だけでも大きな話題となる襲名ですが、3人いっぺんにということで、周囲の反響もたいへんなものがあり、年明けの大行事として、後々まで語り継がれることになりそうです。
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このことについて、松本幸四郎さんは、昨年の発表会見で「神ってる」と流行語となった言葉を引用しましたが、たしかに、人生で2度も親・子・孫の3代襲名ができるということは、奇跡的といっていいでしょう。
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梨園では、父と息子は師匠と弟子となります。普段の会話も、敬語であることが多いそうです。親子でありながら、ひとつ明確に線を引かなければならない辛さ、さらにその辛さを、誰しもが可愛がりたいはずの孫にまで向けなければならない厳しさを考え合わせると、歌舞伎の家に生まれたからといって、当たり前のように名を継ぎ、名優となっていくわけではないのだということは、容易に想像がつきます。事実、松本幸四郎さんも、ご自分のお父さんから「褒められた記憶はない」と述懐しています。
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このおめでたい行事に、周りの反響も物凄く、新聞各紙をはじめ、各メディアが一斉に伝えました。また、ことしの8月には、東京・銀輪にある和光ホールで「高麗屋三代襲名記念展」が開幕し、松本幸四郎さん、市川染五郎さん、松本金太郎さんがオープニングセレモニーに出席。3人の押し隈や舞台写真など、展示されたものを感慨深げに眺めながら「感無量でございます。展示の品は魂の入った、懐かしい、愛おしい品ばかりでございます」と松本幸四郎さんがマスコミからの質問に答えれば、市川染五郎さんも「展示されているものは、これまでの私です。来年襲名するにあたり、これまでのことが間違いではなかったということを証明するために、来年から幸四郎としてつとめていきたいと思います」と、気を引き締めながら話しました。
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松本幸四郎さんは、「襲名は襲命です」と言います。「身を粉に、死に物狂いで芸に向き合う。命を削って、寿命を縮め、命を落とすこともあるかもしれない。文字通り、命を懸けてやらなくちゃいけない」と。現在、日本に当たり前のようにある歌舞伎ですが、それを支えている人たちの決意が伝わる言葉です・。
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高麗屋の人たちの特徴として、歌舞伎の世界のみならず、現代劇、ドラマ、映画と幅広く活動してきたことが挙げられるでしょう。松本幸四郎さんは、舞台「ラ・マンチャの男」をはじめ、多数の舞台出演経験があり、「王様のレストラン」など人気ドラマの主演も果たしています。また、娘の松たか子さんや松本紀保さん、市川染五郎さんらと、演劇集団シアターナインスを結成し、三谷幸喜さんや岩松了さんなど、当代きっての脚本・演出家たちと組んで、質の高い演劇作品も世に送り出しています。まさに芸のために生まれ、芸に身を捧げてきた一族です。だからこそ、3代襲名がより注目されるのでしょう。
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逆に言えば、襲名に対する数多くの祝福は。名跡を担う「覚悟」を強固なものにもさせていきます。「歌舞伎を博物館入りさせてはならない」とは、松本幸四郎さんのお父さんである、初代松本白鸚さんの言葉ですが、これだけの覚悟を抱いて襲名されるお3人に、驕りは一切ないでしょう。きっと、私たちに、勇気や喜び、感動を、歌舞伎をはじめとするさまざまな芸の分野で、提供してしれるに違いありません。