従来のマスコットというのは洗練されたデザインで、上質なアニメの登場するようなキャラクターというのが一般的でした。それらを着ぐるみという形で現実世界に登場させるからこそ、ファンタジーや夢に溢れていて、子供や女性を中心に人気を集めることができるというメカニズムだったわけです。
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その常識を覆したのがゆるキャラでした。ゆるキャラブームの火付け役は滋賀県彦根市の「ひこにゃん」だといわれています。子供でも描けてしまうような簡単でゆるく、雑な印象も受けてしまうような可愛いキャラクターが親しみやすさを生み、大ブームとなりました。それは単に流行というだけにとどまらず、ひこにゃんを見に来る観光客やグッズ、お土産品などで市にもたらした経済効果は莫大なものとなりました。
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この成功にあやかって多くの自治体や市町村でゆるキャラが作られることになりました。しかし、ブームというのは残酷な一面もあり、物珍しいうちは人々の注目を一点に集めますが、似たようなキャラクターが量産されるとそこから競争が始まってしまいます。少しでも目立とうと、デザインやキャラ付けの思考覚悟が繰り返され、決してゆるいとは言えない熾烈なたたかいが繰り広げられています。
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その最たるイベントがゆるキャラグランプリです。増えすぎたゆるキャラの中から、本当に優れたキャラクターを選ぶというわけです。毎年開催されているグランプリですが、大会を終えた後も根強い人気を博しているのが2014年に優勝した「ぐんまちゃん」です。
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ポニーをモチーフにしたかわいい「ぐんまちゃん」は、実は「ゆるキャラ」という言葉が世間に定着する前から活躍していました。火付け役はひこにゃんというのが一般的ですが、元祖はぐんまちゃんであると主張する人も少なくありません。つまり、ぐんまちゃんの魅力はゆるキャラでありながらも適当さがあまりなく、親しみやすさを丁寧にデザインしたキャラ作りとなっています。
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ゆるキャラのグッズは「ウケ狙い」という一面もある中で、ぐんまちゃんのキーホルダーやぬいぐるみは、ディズニーのキャラクターやサンリオのキャラクターと並べてみても見劣りしません。決して奇抜ではないものの、子供からお年寄りまで幅広い年齢層に受け入れられるデザインなので、グランプリでは多くの票を得て優勝しました。
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地域の様々なイベントに参加しますが、ぐんまちゃんの丁寧なファンサービスも高評価の理由となっています。他のゆるキャラは少しでも全国ネットで目立ち、認知されるために個性的なデザインを施していたり、多少無理があると思われるような設定を作っていたりします。個性が強いものというのは、ハマる人には良いですが、一方で一部の人からは反感を買うこともあります。とても魅力的と思う人もいれば、どこが良いのかわからないという人も現れやすくなってしまいます。ぐんまちゃんには目立った設定はありませんが、その優しいデザインと、イベントに参加してくれた人たちに丁寧な対応をすることで、誰からも好かれるという武器を手にしました。
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SNSを活用しているゆるキャラも数多くいますが、更新頻度だけに重きを置いて写真一枚とわずか一言というケースもちらほら見受けられます。しかし、ぐんまちゃんが更新するブログではそれぞれのイベントの内容が詳細に載っていて、画像もたくさん使用されています。見るだけでワクワクが伝わってくる内容になっています。画像が多いので神出鬼没なイメージがあり、実際にぐんまちゃんが様々な場所で生きて生活しているような感覚になります。ゆるキャラの世界も、人の世界も、やはり生き残るためには個性だけなく、誠実さが必要ということなのでしょう。