2019年6月から9月までの間に、原因のわからない呼吸器疾患の症例がユタ州で28件、ウィスコンシン州で32件報告されていて、健康であるはずの学生や若者達が深刻な病を抱えているといいます。さらに、唯一の共通点として「全員が電子タバコを吸っていた」ということが明らかとなり、あらゆる検査機関が原因究明を急いでいます。
以前、イリノイ州に住む30歳の女性が重篤な呼吸器疾患を発症し、死亡しました。さらに、その翌月にもオレゴン州でまたひとり同様の疾患で死者が出ています。この原因不明の呼吸疾患の症状には、呼吸困難だけでなく、胸の痛み、息切れといった症状があり、一部に嘔吐や下痢の症状も見られているとのことです。また、ウイルスや細菌による感染から発症したわけではなく、普通に生活していて呼吸することができなくなってしまうようです。米国では高校生のおよそ2割が電子たばこを喫煙していることから、この習慣が人体にどのような悪影響を与えるのか、早急な解明が求められていました。そんな中で死亡者が相次ぐ原因不明の呼吸器疾患に、米疾病管理予防センター(CDC)や各州の保健機関、米食品医薬品局(FDA)が原因究明に取り掛かりますが、未だ何も明らかとなっていません。
しかし、米医学誌『Journal of Clinical Investigation』が発表した研究が、大きなヒントになるかもしれないといいます。ヒューストンのベイラー医科大学の研究チームによると、電子たばこの蒸気にさらされたマウスには、紙巻きたばこの煙を吸ったマウスとはまったく別の重い症状がいくつも現れたそうです。チームは、ニコチン無添加の電子たばこの蒸気をマウスに吸わせる実験を行ったところ、その肺を感染から守るはずの重要な細胞が変質してしまうことがわかったそうです。これは、細菌やウイルスに対する肺の防護力が“阻害”されて起きる変質であり、電子たばこの蒸気でマウスの肺の免疫系が機能不全に陥ってしまったことを意味します。
肺は酸素を取り込み、二酸化炭素を出すという体内のガス交換を担う重要な臓器です。それだけでなく、普段の生活で体内に取り込んでしまう汚れ、細菌、ウイルスなどの汚染物質を左右の肺を覆う薄い脂質の層と、マクロファージという細胞群が肺を守り、結果的に体全体を守っています。ところが、今回の研究によると、電子たばこのカートリッジを満たしている溶剤が脂質層を傷つけ、マクロファージのクリーニング作業を妨害して、大事な働きを狂わせていることがわかりました。しかし、研究を指揮したベイラー医大の呼吸器科医ファラー・ケラドマンド氏は、正確に脂質層で何が起きているのかまではわからないとしています。
そのため、何が変化しているのかを知るには、さらなる調査が必要だと言及していますが、肺の働きが損なわれていることは確かだと断言しています。他にも、CDCが調査に当たっている原因不明の症例のうち、一部はリポイド肺炎と診断されている患者がいます。この病気は、肺炎に似た症状を伴いますが、細菌感染に起因せず、肺に脂肪が蓄積する免疫反応の一種だそうです。ケラドマンド氏の研究室でも、一度もニコチンを吸い込んでいない複数のマウスにこの症状が確認されています。ノースカロライナ大学チャペルヒル校の教授イローナ・ジャスパース氏はによると、「それはつまり、慢性的に電子たばこの溶剤の蒸気にさらされるだけで、発症に至るには十分だったわけです」と、電子たばこの危険性について指摘しました。
全米で急増中の呼吸器疾患が、全て電子たばこの溶剤が原因で起きているとは考えにくいですが、毒性のある香料や超高濃度のニコチンのほか、テトラヒドロカンナビノール(THC)という物質も電子たばこの有害性を高める可能性があるとジャスパース氏は語りました。そこで、「いままでと同じ考え方で病気を突き止めようとすべきではありません。先入観をもたずに取り組んだほうがよさそうだと、多くの人が気づき始めています」と、今までの慢性的な喫煙習慣をもつ人によく見られる肺がんや肺気腫などの疾患とは別の病気にかかる可能性を踏まえた科学者の研究が必要であることをジャスパース氏は訴えています。以前から問題視されていた電子たばこの身体への悪影響について、ようやく本格的な調査が行われ始めました。日本でも多くの喫煙者が電子たばこを利用していることから、多くの危険性が秘めていることを頭に入れておく必要がありそうです。
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