邦画の恋愛映画、最近では少女漫画が原作の高校生たちを取り巻く甘くせつないラブストリーが旬ですが、大人な恋愛映画もお勧めします。
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駆け込み女と駆け込み男。大泉洋さんが主演を務めブルーリボン賞を受賞した作品です。原作は井上ひさしさんの東慶寺花だより。ご政道批判をして江戸払いとなった戯作者にあこがれる見習い医者の信次郎は東慶寺御用宿柏屋の三代目源兵衛(樹木希林)を頼ってやってきます。
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同じころ、堀切屋妾のお吟(満島ひかり)とじょご(戸田恵梨香)も縁切寺と呼ばれる東慶寺に駆け込みます。追手がかかる場合もあり、女たちには命がけの逃避行です。山門の前で追手にとらえられてしまい駆け込むことが叶わずとも、身に着けているものを投げ入れると駆け込みが成ったとみなされます。
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御用宿とは駆け込みがあった際に、夫婦両方から聞き取りを行う場所です。そこでの内済が決裂し夫側が離縁を受け入れず話し合いによる離縁が適わぬ時、駆け込んだ女の離縁の意思が変わらない場合、妻は山と呼ばれる東慶寺で2年過ごせば晴れて縁切り状が貰える仕組みになっており、東慶寺に2年間の修行に入ります。修行が晴れて済めば夫側は三下り半と言われる去り状、離縁状を必ず書き渡し離縁が成立します。寺に入る際に納める上納金により3つの位に別れますが、入れば全員男はもちろん、外界との接触が一切絶たれます。たった2年間、されど2年間、東慶寺で過ごす2年間女たちに様々な事柄がおこります。point 348 | 1
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様々な事情をかかえた縁を切りたい女が出てきます。堀切屋三郎衛門(堤真一)に惚れ抜いているかと思われたお吟。色町に入り浸るだんなの代わりにヤケドしながらも若い衆や家のために熱い鉄を打つじょご。父の道場を道場破りの男に乗っ取られた上、許婚も殺されしまい無理やり夫婦にさせられた戸賀崎ゆう(内山理名)。この三人を中心に話は進んでいきます。愛して愛してやまない男に死に顔を見せたくないために離縁を求める女、養い親に遠慮して自らを罰する女。憎い相手から必死に逃げる女。売られた妹を救うため身代わりになり身を潜める姉。様々な哀しい想いが胸を締め付けます。
色町に居続ける上に罵詈雑言をあびせる旦那と縁を切るために寺に入ったじょごと音次郎の秘めた恋というか、かなり最初から音次郎からあふれ出てしまうじょごへの恋心の行方も気になります。大人であっても、恋の始まりは、たどたどしいのだと微笑ましくもあります。point 462 | 1
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近年の研究で江戸には女性人口が少なかったため、町場に住む女性は案外強く自由に生きていたといわれていますが、それでも女性の力が弱く我慢を強いられる立場であった時代であったことは想像に難くなく、わざわざ女性を救いだそうとする場所を用意していた幕府のこの制度にもそれは表れています。救い出された女性はおよそ2000人にものぼるということです。
あらすじを見ただけでは恋愛映画なのかといわれるかもしれませんが、男を愛した女たちの最後の形がここにあります。時代は移り変わっても人を愛する気持ちや情は変わりないのだと思えます。point 317 | 1
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戯作者になりたし、才は無しの医者見習いの信次郎は原作では青々あしいまでの若さで描かれていましたので映画での配役が大泉洋さんなのはどうかな?と思っていましたがそれは杞憂に終わり素晴らしい演技でしたし、他の出演者の皆さんも力量をお持ちの方揃いで素晴らしかったです。原作のあるものは大概あらすじものになるか、全く違うものになりがちですが、この映画は原作を壊すことなく、どころか行間にある女たちの息遣いや葛藤、更にそれを引き立たせる美しい映像と音楽で魅せてくれます。四季の移ろいと女性たちの思いがリンクしているようで、息をぬむほとの美しさです。日本の風景の素晴らしさも再確認できます。重くなりがちな題材ですが、美しい四季と落ち着いた音楽、時にコミカルな演出で鑑賞後は心が温かくなります。point 407 | 1