昨今問題になっている”孤独死”。壁1枚隔てた隣の部屋で、床をうじがはい回る孤独死が起こったり、セルフネグレクト(自己放任)に陥り、年間孤独死者3万人、孤立状態1000万人、それが現在、私たちの生きている社会の現実となっています。
ある日、(一社)日本遺品整理協会の理事、上東丙唆祥(じょうとう ひさよし)さんは、孤独死現場に足を踏み入れようとしていました。その部屋は6畳ほどのワンルーム。この部屋で亡くなったのは当時50代後半の山田聡さん(仮名)で、1カ月以上が経過していたそうで、発見したのは管理人で衰弱死だと上東さんは推測しました。point 208 | 1
玄関には、杖が1本ポツンとおかれていました。あたりには空っぽのシャンプーやリンスが放置され、小さなキッチンには電気コンロがあり、ワンドアタイプの冷蔵庫は空っぽだったそうです。
36インチのテレビは、段ボールで支えられ、簡易式の洋服掛けには、警備会社の制服や制帽が掛けられていたことから、仕事は警備員だったようです。入り口近くに、体液が広がり、凄まじい異臭を放っており、山田さんは、ゴミに埋もれた形で最期を迎えたのは明らかでした。
しかし、地方に住む両親からは、手紙や野菜、米などが定期的に送られてきていたようで決して食べ物に困っていたようではないにもかからわず、そのままの状態で放置されていたそう。食生活はほとんど外食で、炊飯器は何年も使用した形跡はありませんでした。
上東さんは「スーツと革靴の数の多さを見ると警備が主な仕事で、激務だったんだろう。性格は、神経質か几帳面で、人とのコミュニケーションは不器用か苦手なタイプ。責任感が強く、関わる人たちに迷惑は絶対にかけたくないという思いがあったんだと思う」と話しています。
おそらく長年、警備員として働いていた山田さんの身に異変が起こったのは、ここ数年のことでしょう。山田さんは、右足を負傷してから、杖を使うようになり、杖なくしては立てなくなり、仕事も辞めて、徐々に家にひきこもるようになり、足は日に日に悪くなり、自分の身体を呪う生活が続いたに違いない。そして、セルフネグレクトになっていったのではないかと上東さんは考えます。point 232 | 1
半身が悪化する前後に、トイレに行くのもつらくなり、きっとペットボトルに小便をためて、用を足すようになっていく。
桜の咲く公園が近い自宅から、花見客で賑わう笑い声を聞きながら、山田さんは何を思ったのでしょうか。最期、山田さんは極度に衰弱し、ひっそりとゴミの中で息絶えてしまいました。孤独死の現場から見えるのは、社会から一度孤立すると、誰にも助けを求められずに崩れ落ち、命を落としてしまう現役世代たちの最期の姿です。私達がこの現実から学ぶことができること、できることは何なのでしょうかー。point 247 | 1
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