「鼻の癌はあまり知られていないが、誰にでも起こりうる癌で、気づいた時には進行していることも少なくない。癌の根治と治療後のQOL(生活の質)の維持が両立できるよう治療法を決めており、鼻の悩みや 不安があれば、医療機関に相談してほしい」と 頭頸部腫瘍に詳しい兵庫医科大講師の宇和伸浩さんは話しています。
鼻の穴の奥には 複雑な形をした空洞が広がり、吸い込んだ空気を温めて湿り気を与えたり、小さなごみを粘膜でとらえて排除したりしているのですが、この部分に癌ができることがあるそうです。患者は少ないものの、発見が難しく、注意が必要なのだそうです。
発症原因の一つは喫煙
鼻の内部には、吸った空気が通る「鼻腔(びくう)」があります。その周りには、鼻腔とつながる「副鼻腔」という四つの空洞が左右一対ずつ備わっています。
これらの場所にできるのが、鼻の癌なのです。頭から首までの部分にできる頭頸(けい)部癌の新規患者数は、年間約5万人で、このうち5~7%が鼻腔癌や副鼻腔癌とされるそうです。
患者が最も多いのは、左右の頬の骨の内側にあり、副鼻腔の四つの空洞の中で最大の「上顎洞(じょうがくどう)」にできる癌です。
鼻の癌で、推定される発症原因の一つは喫煙。たばこの煙で、鼻の粘膜が慢性的に刺激され、炎症が起きやすくなるという。また、クロムやニッケルなどを扱う金属加工業や、工場内に粉じんが舞う木材加工業や製粉業は、他の職種に比べて 従業員の発症リスクが高いとする報告もあります。副鼻腔にうみがたまる「蓄膿症(慢性副鼻腔炎)」も要因の一つといわれています。point 233 | 1
口に広がれば歯ぐきが腫れ 目に進めば眼球が突出
癌ができて最初のうちは、片側だけの慢性的な鼻づまりや鼻血が起こることが多いそうです。これらの症状は、風邪や花粉症、蓄のう症でも見られ、癌であるとは気づきにくいことも。
癌の広がる方向によって 様々な症状が表れます。口に向かって広がれば、歯ぐきが腫れるほか、歯が痛くなることもあります。目の方へ進めば、眼球が前に突出したり、物が二重に見えたりします。
検査は、鼻の穴にファイバースコープを挿入し、癌の広がりを確認します。エックス線撮影装置やコンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)などを使った検査も行います。
癌が目の方向に進んでいれば、眼球の摘出が必要になることも…
このようなことを避けるため、放射線治療などを行います。
兵庫医科大講師の宇和伸浩さんによると、まずは放射線や抗がん剤による治療を組み合わせて、癌をなくすことを目指すといいます。治療後に癌が残っていたり、再発したりする場合は、手術をします。point 150 | 1
鼻の炎症が続けば まず治療を
蓄膿症などで鼻の炎症が続く人は、早めに治療することが大切。鼻づまりが長引いたり、鼻血を繰り返したりすれば放置せず、耳鼻咽喉科を受診すれば、鼻のがんを予防することにもつながります。
一方、発症リスクが高いとされる金属加工業や木材加工業、製粉業といった職業の人は、マスクの着用や換気・排気といった適切な作業環境の管理が欠かせません。作業時間を短縮したり、早期発見のための健康診断を受けたりすることも必要でしょう。