2008年12月から2010年8月まで小説すばるで連載されていた東野圭吾氏の著作「マスカレードホテル」は1流のホテルを舞台にしたミステリーです。2014年8月にマスカレードシリーズとして第2弾のマスカレードイブが集英社文庫で発売されています。殺人予告があったホテルに刑事がホテルマンに扮して警護にあたるのですが、慣れないホテルサービスの勤務、容疑者もターゲットも不明という不可解な殺人予告に翻弄させられます。ホテルの仕事をプロのスタッフに教わりながら、犯人捜しをしていきます。
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ホテルの殺人予告の前に殺人事件が3件東京で起こっており、犯行手口が違う、被害者同士には接点がないと捜査が行き詰っていました。しかし事件にはいつも数字が書かれた暗号が被害者の衣服に残されており、緯度と経度であることが判明し、次の犯行場所を示していることがわかります。そのため次の殺人がホテルで行われることが判明するのです。超1流ホテルのコルテシア東京で殺人を阻止するために潜入捜査を行うことになります。原作ではコルテシア東京ですが、小説のタイトルが仮面をかぶるという意味のマスカレードホテルになっているところも興味深いところです。
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刑事は犯人を暴くために宿泊者や利用者の素性を明らかにしようとしますが、利用者のプライバシーや安全を第一に考えているホテルのフロントクラークの女性スタッフと当然に衝突することになります。女性スタッフと刑事はコンビを組んでおり、刑事は女性スタッフから仕事を教えてもらう立場にあります。ホテルにはいろいろなお客様が訪れますから、刑事からはどのお客様も怪しく見えてしまいます。
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主人公は刑事役でホテルのスタッフに扮する警部補の新田。フロントスタッフとして接客までこなす切れ者という設定です。新田の指導担当としてヒロインを演じるのが優秀なホテルクラークの容姿端麗な女性、山岸。目が不自由で山岸に接触してくる女性客の片桐。気性が激しくある男性がきたら追い払えと言い、偽名でチェックインした女性客の安野。新田に絡んでくる男性客に栗原。この5人を中心にストーリーが展開していきます。どのお客様も複雑な事情を抱え、なぜかホテルスタッフに要求が多いという特徴を持っています。いろいろなお客様のリクエストにプロとして応対しながら、新田と山岸との間にだんだんと信頼関係が芽生えていくというところも見どころです。
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ホテルで接客サービスと推理をしていた新田には犯人が同一犯なのではなく、闇サイトでつながりを持った複数犯なのではないかと思い当たります。誰が何のために誰を狙っているのか、事件を未然に防ぐために怪しい客の一挙手一投足に目をこらしながら、一方ではホテルマンとして機敏に行動できるようになっていく新田が痛快でストーリーにぐいぐい引き込まれます。新人の頃の仕事ぶりやホテルマンとして必要なスキルなど仕事に関する意識も改めさせられます。刑事とホテルマンという相対するような仕事にもそれぞれの仕事に共通した部分があることなども感じさせられます。
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どの客が伏線でどの客がサクラなのかといった推理についても新田になった気分でワクワクドキドキしながら読み進めることができます。仮面をはがす刑事、仮面を守るホテルマンといった意味もタイトルのマスカレードに込められているのがわかるようになります。ストーリーが頭の中でイメージしやすい小説です。犯人の動機についてもホテルマンとしての仕事に関わるものであり、正しいことをしても人に恨まれることがあるという仕事についても考えさせられます。ホスピタリティとはだれのためのものなのかなど小説を読み終わった後に仕事に対するプロ意識を持たなければと思わされてしまうはずです。