子供は何も知らないように見えて、時々何故そんなことを?と大人が驚くような発想や言動をします。どこで覚えてきたのか分からない、誰に教わったのか分からない、突拍子もない子供の様子に大人は面をくらいます。しかし、そんな子供の新しい一面に大人は感動し、逆に物事について深く考えさせられる事もあるのです。
人種の壁
アメリカで教師をしているタナイ・ベナートさんには、小学5年生(当時)の息子さんのデズくんがいます。ある日の朝、タナイさんはデズくんに対し、「ロックダウンドリル」について尋ねました。ロックダウンドリルというのは、海外の学校で行われている訓練の1つで、学校内に武器などを持った不審者が侵入した場合に備え、子どもや先生たちが安全な場所に逃げこみ、部屋をロックして待機することを言います。point 255 | 1
「最近、あなたの学校でロックダウンドリルは行われたの?」というタナイさんの問いに対し、息子であるデズくんはうなずきます。教育者として、訓練の内容が気になったタナイさんは、さらにデズくんと次のような会話を繰り広げました。
母親:どんな訓練をしたのか、教えて。
息子:先生はドアを閉めてロックし、外から見えないように黒い紙をドアの窓に貼り付けた。それから、僕とほかの3人の男の子で机を運び、ドアの前にバリケードを作ったよ。クラスメイトは、壁を作った僕たちの後ろに待機したんだ。
母親:誰の後ろに立つですって?
息子:僕と、ほかの3人の男の子。僕たちはクラスメイトの前に立つ役割をした。
デズくんの言葉に、タナイさんは言葉を失いました。何故ならタナイさんの頭には、「全部で23人いるクラスメイトのうち、黒人は息子を含めて2人。どうして黒人だからといって、1番前に立たされなくてはならないの。」とこんな思いがよぎったのです。未だに無くならない人種の壁の問題がタナイさんにそんな考えを生ませたのです。point 260 | 1
僕が望んだ
わき出た不快感をこらえ、タナイさんは「どうしてあなたが立たされたの?」とデズくんに問いかけました。デズくん本人の口から、ちゃんと事情を聞こうとしたのです。ところがデズくんは「立たされたんじゃないよ。友達を守るために、机でドアを抑える役を自分から名乗り出たんだ」と驚きの返答をしました。
デズくんからの予想外な言葉に衝撃を受けたタナイさん。「どうして名乗り出たの?」と尋ねると、「いざとなれば、クラスメイト全員が亡くなって僕1人が生き残るより、友達を守って僕が亡くなるほうがいいと思ったから」とデズくんは答えました。デズくんは、人種差別を受けたのではなく、デズくんの中にある「友達を守りたい」という真っ直ぐな思いからの行動だったのです。point 232 | 1
あるべき姿
一連の出来事はタナイさんのFacebookに投稿され、17万件ものシェアを生む結果となりました。「子どもたちが安心して暮らせる社会を作りたいと強く思った。」「とても素晴らしい息子さんだね。息子さんが危険な状況に置かれないよう、心から願うよ。」「同じように息子を持つ父親としては、まだ若い年齢でこんな事態に直面していることに胸の痛みを覚える。」とタナイさんの投稿には多くの人から様々なコメントが寄せられました。point 263 | 1
デズくんの発言には、本当にさまざまなことを考えさせられます。人々の心を刺す1人の少年の考えは、今後作られていく社会のありかたに一石を投じました。このような行動をしたデズくんに、正しい人としてあるべき姿を見た気がします。
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