長期旅行の人気渡航先、フランス。
世間ではあまり知られていませんが、フランスでアジア系フランス人を狙った暴力事件が相次いでいます。
その理由は、人種差別的な固定観念とアジア人は皆「裕福な」観光客という思い込みによるものではないかと懸念されているといいます。
フランス・パリ南東部のバルドマルヌ(Val-de-Marne)県で、ミン(Ming)さん(41)はバスから降りるときに覆面の男に襲われました。ハンドバッグをひったくられそうになり、抵抗すると、地面に押し倒されて殴られ、意識を失ったといいます。2か所を骨折し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しみました。そのため、仕事も3週間休みました。
アジア系住民に対する襲撃が最初に注目を集めたのは2016年、パリ北部で紳士服店を営んでいた張朝林(Zhang Chaolin)さん(当時49)が襲われ、死亡する事件が起きたときです。
2人の子どもの父親だった張さんは、パリ郊外のレストランに向かう途中、10代の若者たちに襲われ、死亡しました。奪われたのは、携帯電話の充電器と菓子数個だけだったといいます。
その後、犯人らは2018年に刑務所に入れられましたが、携帯電話の充電器と菓子で2人の子どもの父親の命が奪われたというのは非常に無念です。
フランスでは人種別の統計が禁じられているため、こうした襲撃に関する公式のデータは存在しないそうです。しかし、活動家らは、特定のパターンが見えてきたと指摘しています。
犠牲になるのは、たいてい女性や高齢者。通りで目を付けられ、後をつけられる。そして、人通りのない場所まで来て襲われる。
また、「狙われるのはアジア人だからだ」という声もあります。「『非力で、いつも現金を持ち歩き、自衛するすべを知らない』。こういったアジア人に対する固定観念が襲撃に関係している」ようです。
首都パリと同地域圏の警察の記録によると、2018年5月からの1年間に114件の襲撃が起きており、これは3日に1件の発生頻度に相当するといいます。事件が起きた場所の大半がバルドマルヌです。
しかし、この被害件数は実際よりも少ない件数です。何故なら、襲われた人の多くは被害に遭ったことを通報しないからです。報復を恐れてか、または恥の意識、不法滞在が理由のことから、警察に行かない人がいるそうです。
ある警察当局者は、アジア系の人々を襲うことがギャングの仲間に加わる「通過儀礼」になっている可能性があるという指摘までしています。「いきがっている若者は、アジア人はいつも大金を持ち歩いていると思い込んでいる」、そして、「彼らにとっては、(アジア人襲撃は)ゲーム、賭けだ。だからこそ、時に暴力がエスカレートする」とのことです。
フランス華人青年協会(AJCF)のレティシア・チブ(Laetitia Chhiv)会長は、「状況は改善している」と主張していますが、まだまだ油断はできません。パリを中心とした地域圏の学校では実験的な啓発プロジェクトが近いうちに開始されることになっています。