中米、パナマ運河のすぐ東に、パナマ政府と米国政府が共同で運営するハエ養殖施設があります。この施設では、１週間に数百万匹、１年間に１０億匹以上のハエを育て、放しているといいます。
ここで育てられているのは、生きたウシの体に穴を開けて組織を食い荒らすラセンウジバエです。（一般的なのはイエバエ）ラセンウジバエと闘うため、科学者たちは実験室でこのハエを大量に育て、蛹（さなぎ）になったところで放射線を照射して不妊化し、羽化した成虫を中米の原野に放しています。
こうした手の込んだ作業で出来上がるのが、目に見えない重要な「壁」です。
壁の存在はほとんど知られていませんが、この壁のおかげで、北米と中米の家畜は、パナマ南部のラセンウジバエとその幼虫から数十年にわたって保護されているのです。
南北米大陸に生息するラセンウジバエは１９６６年に米国から根絶され、現在は「ラセンウジバエの根絶と予防のためのパナマ米国委員会（Panama-U.point 72 | S.point 74 | Commission for the Eradication and Prevention of the Cattle Borer Worm：COPEG）」が北中米への侵入を阻止しています。さらにこの手法は、イチゴ、コーヒー豆、綿などを害虫から保護するのにも役立っています。point 201 | 1
青い光沢のあるラセンウジバエは、動物の傷口に卵を産みつけ、幼虫はその組織を食べて成長。このハエはマダニの噛み跡のような小さな傷口にも産卵できるといいます。ラセンウジバエが体内に侵入すると命に関わることもあります。
寄生虫はイエバエの幼虫の約２～３倍の大きさで、特に家畜の肉を好みます。ラセンウジバエの幼虫は、２０世紀前半には畜産業に毎年２０００万ドルの被害を及ぼしてきました。
しかし、幸いにも科学者たちはこの寄生虫を阻止する方法を発見しました。放射線を照射して不妊化したハエを毎週数百万匹ずつ放すことで、米国から中米までのラセンウジバエを根絶したのです。不妊虫放飼と呼ばれるこの取り組みのために、米国とパナマが初めて手を組んでから２５年、このプログラムが成功し、人間や動物をこの寄生虫から解放できました。
ラセンウジバエのメスは、３週間の生涯に一度しか交尾しないため、交尾するオスが不妊であれば、新たなラセンウジバエの幼虫は生まれません。１つの地域が不妊のオスばかりになれば、最終的にハエは死滅することになります。このような仕組みが、ハエを減少させているのです。
米国政府はラセンウジバエの生物学的弱点を利用し、１９６６年にこのハエを国内から根絶することに成功しました。
不妊虫放飼法は、ラセンウジバエに効くだけではないといいます。
動物よりも果物や野菜に卵を産みつけることを好むハエはたくさんいるため、この不妊虫放飼う法は、私たちがイチゴを食べるたびに、コーヒーを飲むたびに、その恩恵を受けているといいます。
ハエを根絶させるために、ハエを放す。仕組みを知らないで聞くととても不思議な方法ですが、その概要を知ると中々面白い内容です。
数が増加すれば人体にも影響が出てくることから、今後もこのプロジェクトは生命体維持のためにも欠かせないことでしょう。
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