米国CNBCは、ギリシャで生まれたある男の子誕生の衝撃的な背景を報道しました。母親、そして父親以外に他人の遺伝子を一緒に受け継いでいる男の子は出生と同時に世界的な関心を受けています。
ギリシャで3人の遺伝的データをもつ赤ちゃんが生まれました。誕生例は世界で3人目で、赤ちゃんは母親と父親、ドナー女性の遺伝子を持っています。赤ちゃんの性別は男の子で、健康状態は良好、体重は2900グラムということです。
この不妊治療の処置を行ったのは、ギリシャとスペインの医療陣で、当時3人の遺伝子を受け継いで生まれた男の子の出生を公開しました。体外受精による不妊治療を成功したのは人類の歴史上初の快挙だということです。しかしこの不妊治療の元となっているミトコンドリア病患者への治療法を研究しているイギリスの専門家たちは、この方法による治療を批判しています。
出産に至るまでの経緯
この治療は、不妊だった子供の母親に世界で初めて施行された修正方法です。男児の母親は、長いことミトコンドリアの遺伝的な病気により妊娠ができませんでした。そのため、健康でない卵子核に受精することもままならないことから体外受精を検討したのだと言います。 そこで彼女は、米国の研究者らが開発した遺伝治療法に助けられ、 医師たちは 、母親の将来を考え卵細胞の細胞核をドナーの女性の卵細胞に移し(ドナーの女性からはあらかじめ細胞核が取り除かれていました。)、寄贈を受けた卵子核(別の女性の卵子核)を母親に注入して新しい卵子を生成した後、夫の精子と受精させて子供を出産する方法です。
医師たちは、 非常に稀な遺伝的病気をもつ母親に元気な赤ちゃんを授けることが できたと多いに喜んでいるようですが、その一方で、この手続きは倫理上、 多くの疑問を呼んでいます。こうした体外受精による出産は米国やロシア 、日本など、世界の多くの国々で禁止されています。
3人のDNAを受け継ぐことは可能なのか
そもそも3人のDNAを一人の人間が受け継ぐことは可能なのでしょうか??このミトコンドリア移植として知られる実験的体外受精では、母親の卵子と父親の精子、そして女性ドナーから提供された卵子を使用します。多くの人の遺伝子のおよそ99.
8%は、核に含まれる23対の染色体の中にあります。通常の体外受精では、これらの遺伝子は父親と母親に由来します。しかし、非常に少ない割合ですが、細胞内小器官であるミトコンドリアにも遺伝子があります。ミトコンドリア移植では、母親のミトコンドリアを卵子から取り除き、ドナーのミトコンドリアと置き換える治療法なのです。
この治療法は体外受精のために研究された治療法ではなく、ミトコンドリア病や妊娠時にミトコンドリアが弱体化した母親から、子供へと病気が受け継がれることを防ぐ目的でもともと開発されているものです。
この治療法は2015年にはイギリスで合法化されていますが、今のところ他の国でこの技術を法律的に承認しているところはありません。この治療が臨床的に行われた例が、一例だけあり、それはヨルダンの家族がアメリカの医師たちによって、メキシコの病院で行われたもので、当時物議を醸しました。
この治療法による最新の事例に関わった医師たちの主張では、「ミトコンドリアは妊娠の成功に大きく役立ち不妊治療にもっと広く使われるべきである」と述べています。今回の治療が行われた当時32歳の母親はこれまでに、4回の体外受精を受けていますが、いずれも失敗に終わっていました。
物議を醸している原因とは
多くの学者はこの治療法に懸念を示しています。なぜなら大きな問題点がいくつかるからです。まず、リスクが全くわからないところで、ミトコンドリア病の恐れもある母親に対して使うことが許されるのかという点です。
また、今回が無事成功したからといって、この治療が有益であったことの証明にもならないとのことです。というのも、治療の有効性を評価するための比較対象が、今回の治療には全く存在しないからです。
イギリスで、ミトコンドリア移植が許されるのは、子供にとって致死的な要因となるミトコンドリア病が遺伝する可能性がある場合に限り、個別に判断した結果、移植か許可されるということですが、今回のように妊娠成功率を高めるためだけに手軽に使われるべきではないという批判の声が殺到しているとのことです。
まとめ
2016年のメキシコ、そして2017年のウクライナなどで3人の遺伝子をもつ子供が誕生した事例がありますが、こうした体外受精方法による出産が行われているのは、法による規制がされていない国々ばかりです。さらに、ニュージーランドや英国 、アイルランドでも、3人の遺伝子をもつ子どもの出産は合法であ り、唯一、結論が出ていないのは、このような赤ちゃんの出生証明 書に3人の遺伝的親の名を記載するかどうかという点です。
今回、体外受精を行なった母子はともに健康だということですが、子供を持ちたいのに不妊に陥っている家族の、現状を救う手立てになるかもしれない可能性を秘めている反面、男児の出生の秘密がメディアに公開されることで、母親が特定できない現状により子供を取り巻く環境の悪化や、健康状態を維持したまま成長できるのかという問題点が懸念されるなど、まだまだ慎重に判断していかなくてはいけないのではないでしょうか。
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