昨年6月、大阪市西成区のスナックで来店客同士のトラブルの末、69歳の男性が死亡。逮捕されたのは19歳の少年でした。小学5年から始まった飲酒習慣と、それを容認してきた大人たちが招いた悲劇といえます。
あまりにも理不尽な展開に、法廷では少年の父親に向けた遺族の「親失格だ!」という叫びが響きました。
初対面の常連客に 絡み始め暴行
昨年6月29日、大阪メトロと南海電鉄の天下茶屋駅からほど近い1軒のスナック。常連の男性客2人が和やかにグラスを傾ける中、表情に幼さの残る1人の少年が姿を見せました。
「21歳やから」。店主のママにそう告げた少年は ハイペースで10杯近くの焼酎水割りを飲み続け、やがて常連客に「おっさんら、年いくつや」と絡み始めたそうです。
少年は、1人の男性客の顔面を殴打。制止されても構わず胸への肘打ちや頭突きを繰り返した末、動かなくなった男性は その後、肺動脈などの損傷による出血性ショックで死亡しました。少年は傷害容疑で逮捕、後に同致死罪で起訴されました。
強く注意する大人はいなかった
大阪地裁で開かれた裁判員裁判では、伸びかけの丸刈り頭で法廷に現れた その少年が 事件の経緯とともに、少年の生い立ちや家庭環境が明らかにされました。
4歳のころ両親が離婚。沖縄へ転居後、不登校となりました。そして 小学5年から飲酒習慣が始まったという。
「中学生のころは ビール2~3缶に泡盛の水割りを3杯くらい飲んでいた… 酔うとよく眠れるし、楽しい気分になれるから」
少年は 被告人質問で 淡々と語りました。
自宅や友人の家だけでなく、母親が働くスナックなどでも 飲酒を重ねていましたが、強く注意する大人はいなかったそうです。
中学卒業後は職を転々とし、17歳のころからは父親と同居。愛知や大阪で暮らすようになりました。病院でパニック障害などの診断を受け薬を飲むようになったが、飲酒癖は一向に治らなかったそうです。point 152 | 1
「ビールくらいなら、という気持ちがあった。面と向かい『飲むな』ということはありませんでした」
証人として出廷した父親はこう述べました。
攻撃をやめなかった理由は「覚えていない」
事件についての少年の記憶はあいまいだったようです。
面識のない男性を殴ったのは「笑われたと感じたから」。
無抵抗の男性に執拗な攻撃をやめなかった理由については「覚えていない」と繰り返しました。
事件前日、知人の大人に連れられ現場のスナックで大量飲酒したという少年は 「酒を飲みたいという気持ちが抑えられなかった」といい、翌日、再び同店を訪れ、事件を起こしました。
「幼少期からの飲酒をとめられなかったあなたは親失格だ」
家族を理不尽に奪われた遺族は、声を震わせ やり場のない怒りをぶつけましたが、父親はただ、下を向くだけでした。
男性の長男は意見陳述で「一生許すことはできない」と少年への憤りを吐露しました。
12月23日の判決公判。少年法に基づく懲役5年以上9年以下の求刑に対し、「何の落ち度もない被害者は理不尽に暴力をふるわれ命を落とした。いきさつに酌むべき点はない」として、丸田顕裁判長は 懲役5年以上8年以下の判決を言い渡しました。
一方、「小学生のころからの飲酒習慣という、不十分な養育環境が事件の遠因にもなった」とも述べました。point 229 | 1
大人たちの軽率な言動が、深刻な飲酒習慣に
近年は 未成年とアルコールとの接点は 少なくはなっていはます。
厚生労働省の研究調査によると、週に1回以上飲酒する高校生の割合を平成8年度と29年度で比較すると、男子は14・5%→2・0%、女子は6・4%→1・3%と大幅に減少。成長への悪影響や依存症になりやすいといった認識が広がったほか、平成12年の未成年者飲酒禁止法の改正で、酒類を提供した店への罰則が大幅に強化されたことなどが背景にあるようです。
それでも 中高生が飲酒を経験した場面に関する調査では、「冠婚葬祭」と「家族と一緒」がトップ2を占めました。その場の勢いで、身近な大人が軽い気持ちで酒を勧めたり、止めなかったりしたのではないのでしょうか…
身近な大人たちの軽率な言動が、深刻な飲酒習慣の引き金となり得るのです。point 207 | 1