「音は心にも響く。日本文化の一つとして残してほしいですね」と話す 家の裏が寺というギャラリー経営法邑美智子さん(73)=札幌市東区=は 毎年、寝室で1年を振り返りながら除夜の鐘を聴いていたそうです。
1907年(明治40年)建立の大覚寺(札幌市 東区北10東11)は 市民からの「うるさい」という苦情で 今年初めて、除夜の鐘の中止を決断。
寺院前に中止を知らせる看板を立て周知しています。今春からは朝6時に突いていた鐘もやめました。
荒木道宗住職(47)は「数年前から数十件、匿名の苦情が届いていた。継続を望む声も同じくらいあったがやむを得ない」と話します。
除夜の鐘の中止は全国的に増えているが、市内では「大切な伝統行事。やめないで」という声から続ける寺院が大半。社会の寛容さが失われつつあると心配する声もあるようです。
各地域でも、年越しの風物詩「除夜の鐘」に対し、「うるさい」などとする苦情が寄せられ、中止したり時間を夕方や昼間に変更したりする寺院が後を絶たないとも言われているようです。
寺の檀家の減少や高齢化の影響も
それに加えて、寺の檀家(だんか)の減少などで人手が足りず、深夜の鐘突きを見直す動きもあります。人間の百八の煩悩を払うという除夜の鐘が、世知辛い現代社会の寒風にさらされているようです。
福岡市の東長寺は昨年から鐘を突く時間を夕方に変更したが、その決断の背景にはやはり、元日の未明まで手伝ってくれる住民らの疲労などもあるということです。
また 千葉県松戸市の広竜寺では、大みそか深夜から元日未明にまたがる除夜の鐘の行事が、手伝う住民らの大きな負担になっているなどの理由で、今年から中止することになったそうです。
除夜の鐘をめぐるトラブルは各地でも
静岡県牧之原市の大澤(だいたく)寺では十数年前、除夜の鐘を突いていると「いつまで鳴らしているのか」と匿名の電話がかかってきたことから、除夜の鐘を一時やめました。26年からは再開したものの、時間を昼間に変更して突くようになりました。群馬県桐生市の宝徳寺も27年から昼に鐘を突くようにしているそうです。
都内のある寺院は、平成25年に寺の建て替えに伴って鐘の位置を変更したところ、近隣の住宅から苦情が寄せられました。住民側から申し立てられた民事調停の結果、防音パネルの設置や除夜の鐘以外で鐘を鳴らさないことなどで合意したそうですが、苦情を受けてからは鐘を突くのをやめているそうです。
中止を残念に思う住民も
「毎年突いてきたのに、年末の風物詩が消えてしまうのは残念」。さいたま市の寺院「玉蔵院(ぎょくぞういん)」で毎年除夜の鐘を突いてきたという自営業の男性(52)は肩を落とします。
JR浦和駅から徒歩5分の市中心部にある玉蔵院。約1200年前の平安時代に弘法大師が創建したとされ、除夜の鐘には毎年約200人が集っていたというのだが、今年は行われないそうです。
全日本仏教会によると、除夜の鐘にとどまらず、法要や祈祷(きとう)に対しても「騒音だ」という苦情が各地で寄せられているということです。担当者は「各寺院は地元に根づいているので、苦情を寄せる人も『騒音』を承知の上で住み始めたのではないのか」と疑問を呈しつつも、音の感じ方は人によって異なるため「判断は難しい」と頭を抱えているそうです。
ある意味、迷惑だからというよりも 個人主義的な 不寛容さが広まっている現象ともいえるでしょう。
しかし、中止を残念に思う住民もいることを考えると、あらゆることが一部の苦情でできなくなってしまう傾向もあるので、安易な対応はするべきではないのかもしれませんね。