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遺伝子vs環境
これは、1900年代にアメリカで実際に行われた実験です。1927年、アメリカの心理学者ウィンスロップ・ケロッグ博士は、自然(nature)と文化(nurture)のうちどちらが子供の発達に影響を与えるのかについての研究を始めました。子供の発達において“遺伝子”と“環境”どちらが優性なのか?前代未聞の実験の幕開けでした。
この問いを解決すべく、彼は実の息子であるドナルドとチンパンジーを一緒に育てることにしたのです。もちろんケロッグの妻は猛反対しましたが長い説得の末、ついに実現することとなったのです。
レト・U・シュナイダーは著書<マッドサイエンスブック>の中で、ケロッグがこのような実験を考案するきっかけを作ったのは、自身が新聞に投稿したオオカミ少女の記事ではないかと証言しています。
当時東インドの洞窟で狼と育った女の子二人が発見された。四足歩行をし、食事をする姿はまさにオオカミそのものだった。救助され教育を受けた結果、二足歩行できるようになったものの、夜になると相変わらず狼のように泣き叫んだ。
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ケロッグ博士は、彼女達のこのような行動を“知能の低さ”ではなく“幼少期の環境”によるものだと主張しました。これを証明するべく乳幼児を自然環境の中で育てることを提案しましたが多くの反対を受け、幼いチンパンジーと人間の子供を一緒に育てるという斬新な実験を切り出したのです。
実際に行われた実験
1931年6月26日、7カ月のチンパンジー「グア」がケロッグ博士の家に養子縁組され、10ヶ月のケロッグの息子「ドナルド」と9ヶ月間家族のように過ごしました。同じようにおむつをし、服を着せ、ベビーカーに乗せて散歩をしました。
二人は同じ教育を受けながら、恐怖に対する感度や日々の身長・体重・血圧、知覚や運動機能など様々な試験を行われました。さらに頭を叩いた時にどのような音がするのか知るために、頭蓋骨の違いまで記録しようとしました。
人間の子供とチンパンジー
チンパンジーのグアは驚くほど人間の環境に適応し、時には人間のドナルドよりも賢かったといいます。ドナルドよりも聞き分けが良く、仲直りのチューや排泄物を隠そうとするなどの行動はケロッグ博士を驚かせました。
ドナルドがグアよりも優れていた点があったとすれば、それは「模倣」でした。ドナルドはよくグアの真似をしました。グアがおもちゃを見つけ、遊んでいるとドナルドも同じように遊びました。グアが餌をもらう際に出す音を真似ることもありました。ウィンスロップ・ケロッグとルーエラ・ケロッグ夫婦の本<類人猿と子供(An Ape For a Kid Sister)>には、実験の結果が詳細に記録されています。
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実験の結末
この実験は、10ヶ月だったドナルドが19ヶ月になるまで。そして7ヶ月だったグアが16ヶ月になるまで行われました。その後、実験は中断されたのですが理由は分かっていません。
<マッドサイエンスブック>で著者のレト・U・シュナイダーは、「おそらくチンパンジーが人間のように育ったのではなく、逆に人間の子供がチンパンジーのように育ったからだろう」と述べています。19か月というと、50個ほどの言葉を駆使して文章を作り始めるのが一般的ですが、当時19ヶ月だったドナルドが使えた単語は3つ程だったといいます。実験の中断は母親のルーエラがこのような状況に耐えられなかったからではないかと推測されます。
実験参加者の結末
このように、9ヶ月の実験が終わりました。チンパンジーと人間の子供の同居は、果たしてどのような結果をもたらしたでしょうか。グアはチンパンジーの群れに戻って本当の母親と一緒に暮らしましたが、馴染むことができないまま翌年死んでしまいます。
一方、ドナルドは言語能力が急速に伸び、後にハーバード大学医学部に進学し精神科医になったといいます。しかし、彼もまた両親の死後、数ヶ月が経たないうちに自ら命を絶ってしまいます。
アメリカの心理学者ルディ・ベンジャミンはドナルドの自殺は子供の頃の実験とは直接関連がなく「彼のうつ病は深刻な状態で、自分に関連したすべての人に完璧を求める父の下で育ったという点」が彼を追い詰めた直接的な原因だと述べました。
しかし、ドナルドの息子ジェフは「お父さんの自殺は、幼少期の実験のせいだ」と確信していたそうです。祖父が自分の父親に対し無頓着で成果のみに執着していたのは事実だが、「その実験」の影響がより大きかったとジェフは言います。
ジェフは後にアメリカで出版された論文で、父の死を「45年にわたった殺人」と呼びました。ドナルドは1972年に42歳で自殺したのにも関わらず、なぜ45年としたのでしょうか?それは、ケロッグ博士が息子ドナルドが生まれる前の1927年からこの実験を計画していたからです。
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まとめ
人間に次いで知能の高い動物として知られるチンパンジーは、様々な実験に用いられてきました。チンパンジーを人間に近づけるための研究は実は沢山行われており、キース・ヘイズとキャシー・ヘイズ夫妻が、ヴィッキーと名付けたチンパンジーを自分の子と一緒に育てた例や、ネバタ大学のベアトリック・ガードナー教授と夫のアレンが手話による会話を教えた例などが有名です。実験を通して明らかになった点がある一方で、その実験が死を選択させる引き金になったのもまた事実です。彼らの行動は果たして善と悪のうちどちらに分類されるべきなのでしょうか?
Estames Aimal Use in 2005によると、世界中で毎年1億1530万頭以上の動物が「動物モデル」として実験の犠牲になっています。「医学の進歩のため」「科学の進歩のため」といった大義名分のもと様々な実験対象になり時には死なせてしまうのが動物実験です。近年、動物実験に反対する医師や科学者などの団体(MRMC,PCRM,HSVMA,Pro Anima等)が増えつつあります。私たち人間の利益を考える前に、動物実験について今一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。