東京都立の高校の一部が、生徒の地毛でも黒く染めさせている頭髪指導を巡り、NPO代表や弁護士ら有志が30日、指導中止を求める1万9065人分の署名や要望書を都教育委員会に提出しました。都教委は地毛の黒染め指導を行わないと回答しました。
署名活動は、子供の社会問題に取り組むNPO法人「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹さん(39)や、都内の私立高校で実際に地毛の黒染め指導を受けた女性ら5人が発起人となって5月にスタートしました。インターネットにサイトを設けて賛同者を募ってきました。
署名に合わせ①都立学校で黒染め指導をしないよう通達する ②各校のホームページに校則を掲載するなど情報公開を推進する の2点を求める要望書も都教委に出しました。
これに対し、都教委高等学校教育指導課の佐藤聖一課長は「生来の頭髪を一律に黒染めするような指導は行わない」と明言しました。校則の公開については「学校の特色を掲載するページを充実させる取り組みを行っている」と述べるにとどめたようです。
学校現場で頭髪指導の在り方が問題になる中、頭髪が生まれつき茶色い東京都内の20代女性が毎日新聞の取材に応じてくれました。学生時代だけでなく、社会人になってからも髪の色で肩身の狭い思いをしてきたという女性。「なぜ、社会はありのままを認めてくれないのか」と問いかけます。
女性は、母も弟も生まれつき髪が茶色い家系に生まれました。幼少時は特に色が明るく、海外旅行では入国審査で「本当に日本人なのか」と疑われたそうです。
母も幼少時、髪の色でいじめられた経験があり、自由な校風で知られる都内の私立幼稚園に女性を入園させました。制服はなく、髪形も色も自由。髪の色を意識することもなく、中学までエスカレーター式で過ごしました。
そんな女性に最初の壁が立ちはだかったのが、高校受験でした。母と10校近く訪問したが、いずれも「黒く染めてください」と地毛での登校を断られたそうです。地毛の色を申請すれば黒くせずに済む「地毛登録」の制度がある私立女子校を見つけ、入学しました。
教諭から黒染めを強要されることはありませんでしたが、同級生らは「何で彼女だけ茶髪でいいの」「地毛じゃなくて染めているよね」などと陰口をたたきました。「何で信じてくれないの。地毛の色は『私らしさ』じゃないの」と悲しみが込み上げたそうです。1年の終わりに学校を中退し、海外の高校へ留学しました。 留学先では髪も肌の色もさまざま。仲間は「いい髪の色だね」とほめてくれて、帰国後はインターナショナル校に通い、短大へ進学しました。
2度目の壁は就職活動でした。短大教授の助言で髪を黒く染めて就活を始めたが、髪質のせいかすぐに色が落ちてしまいました。茶髪は地毛だと伝えた上で百貨店とレンタカー会社から内定をもらったが、「接客業なので茶髪はイメージが悪い。入社までに黒く染めてください」 と、人事担当者は言いました。
またか~という怒りを抑えられず内定を辞退しました。1年間のフリーターを経て、昨年から警備会社で働いているそうです。地毛での勤務はできるが、自分のやりたい仕事とは違います。
学校の頭髪指導を巡っては、2017年、生まれつき茶色い髪の黒染めを強要されて精神的苦痛を受けたとして、大阪府立高の3年生だった女子生徒が約220万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴し、今でも係争中です。
提訴をきっかけに、行き過ぎた頭髪指導や時代遅れの校則を見直そうという機運が各地で高まりました。しかし、その後も一部の中学校や高校では、地毛であっても黒く染めさせる対応が続いています。
女性は今、再び髪を黒く染めようと思っています。冬に入社が内定している航空会社で働くためだそうです。何度も迷ったが、夢のためと割り切りました。「自分の髪の色を大事にしたい、と思ってこれまで反発してきたけど、通用しなかった。これが日本の現実なんだ」と、女性は言います。
今回の署名活動に協力した家庭用品のプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)が今年2月、現役の中高生400人を含む計600人を対象に実施した調査で、13人に1人が地毛の黒染めを求める指導を受けた経験があったことが分かっています。