見たことがない妖艶な花の姿
映画「アバター」のような世界観の花。
写真家クレイグ・バロウズ氏が撮った花々の写真を見るとそんな考えが出てしまいますね。
浮かび上がる花びらは黒い背景と鮮やかなコントラストをなし、あちこちに蛍火のような光の粒が散らばっています。
こうした不思議な色彩の作品は、彼がUVIVF(ultraviolet-induced visible fluorescence、紫外線誘発可視蛍光)と呼ぶテクニックを用いて撮影したもの。紫外線を照射したときに被写体が発する蛍光をとらえた撮影手法です。
この紫外線は、複眼を持つ昆虫には見えるモノなんです。
複眼を持つ昆虫は、人間が見ることのできない、「不可視光」を見ることができる色覚をそなえています。
紫外線や赤外線を感じる視細胞と感光層をもっており、我々とは別のビジョンで花々を見ているのです。
「手軽に撮影できるタイプの写真ではありません」とバロウズ氏は言っています。
撮影する際には通常、被写体となる花を金属のスタンドに載せ、遠隔シャッターを使って10~20秒間露光させます。
シャッターが開いている間、バロウズ氏はじっと息を止めているのです。
空気がわずかでも揺れたり、花びらが動いたりすれば、被写体にぶれが生じてしまうからです。
こうした手のかかる手法だからこそ、花は魅力的な被写体となります。
「花は逃げ出したりしませんから」とバロウズ氏は笑ってかたります。
バロウズ氏はこの先、花一輪ではなく、場面全体を入れた写真を撮影することを目指していようです。
作品の仕上がりは予測できないことが多いが、経験上、ヒナギクやヒマワリのような集合花は、特に花粉が明るく光る傾向にあるとバロウズ氏は言います。
最も驚かされたのはキュウリで、その花は明るいオレンジと青に輝き、花粉が非常に強い光を放つそうです。
被写体を探すとき、バロウズ氏は携帯ライトを持って家の近所を歩き、花を照らしてまわるといいます。
岩やサンゴ、甲殻類まで、自然界には紫外線を受けて蛍光に光るものが少なくありません。
ただし、それが実際に何の役に立っているのかについては、まだ研究の途上。研究者らは、花粉を媒介する虫たちを誘導するのに役立っているとの仮説を立てているが、まだはっきりしていないようです。
バロウズ氏の元には、教育イベントでの作品展示やUVIVFを使った写真講座などの依頼が寄せられています。
バロウズ氏はしかし、自身の写真によってもたらされる最大の利点は、この写真がどうやって撮影されるのか、物理的な過程を知りたいという人が増えることだと考えています。
「紫外線や赤外線を利用した写真が教えてくれるのは、ふだん我々の目に見えなくとも、自然の中でとても大切な役割を担っているものが存在するということです」とバロウズ氏は言います。
「まだ気づかれていなかったり、軽視されていたりするものを探し続けることの大切さを、我々に思い出させてくれるのではないでしょうか」