英国のニュース放送「スカイ・ニュース」のインタビューを受けたイタリア、ベルガモ市の病院のダニエル・マッキーニ医師はこう言いました。「コロナウイルスがいかに危険なものか人々に伝わっていない。これをbad flu(悪質な風邪)と言うのはもう止めてくれ。」
イタリアでは、新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がり病院の施設や医師、看護師も対応しきれない「医療崩壊」が起きて死者が急増しています。その中で疲労困ぱいしながらも治療に当たっているマッキーニ医師は、問題の本質をこう一言で言い放ったのです。
3月10日朝からイタリアの街の空気は一変しました。それまで新型コロナウイルスの感染者が増えていたものの、前週末まではイタリア人の受け止め方は様々でした。息抜きのために散歩やジョギング、公園に出かける人も多くいました。
しかし、コンテ伊首相が9日夜に、10日から移動制限を北イタリアから全土に拡大すると発表しました。国民に外出を控えて自宅で過ごすように要請し、「国民全員が協力して、厳格な規制に対応してほしい。私たちにはもう時間がない」と訴えかけました。飲食店は営業時間が午前6時から午後6時に制限され、客も1メートル以上の間隔を保たなければならなりません。
イタリアの「医療崩壊」については、予算削減で医療体制が脆弱化していたことが招いたものという見方が有力ですが、同時に中国でウイルスの感染が広がった時に「所詮は季節的インフルエンザの亜型の『悪質な風邪』に過ぎない」と軽視して対応が遅れ、気づいた時は手遅れだったことが挙げられています。
「パニックを避けなければならないことは理解するが、このウイルスがいかに危険なものなのか人々に伝わっていなかった。ジムへ行けなくなったり、サッカーの試合を観戦できなくなることに不満をもらす人々に恐怖心さえ抱いた。」と、マッキーニ医師は言いますが、このイタリアの教訓さえも他国と共有するには至っていません。
「コロナウイルスは予想よりも早く感染のピークを打ち、減衰をはじめる」と、大衆紙「ニューヨーク・ポスト」電子版に今月8日、こんな見出しの記事が掲載されました。
筆者は弁護士兼作家兼ジャーナリストという肩書きのマイケル・フメントという人物で、新型コロナウイルスで株価が暴落したり、パリのルーブル博物館が閉鎖されたりするのは「純粋にヒステリー状況」としか言えず、その間にもウイルスの拡散は収まってきているとします。
その根拠としてマイケル・フメント氏は、米国では季節性の風邪で昨年は8万人死亡しているのに、このウイルスの死者は9人に過ぎません。感染力も風邪の方が強く、致死率もウイルスか風邪か原因がはっきりしないことを挙げ、これから北半球は温暖な季節に入るので5月までにはウイルスは死滅するだろうと予言します。
しかし、米国の事情はマイケル・フメント氏の予言とは逆に急速に悪化しており、米国政府も「風邪説」を打ち消すのに躍起になっています。
「新型コロナウイルスは季節性の風邪の少なくとも10倍の致死性があり、今後状況はさらに悪化することを覚悟しなければならない。」と、トランプ政権でウイルス対策のアドバイザーをしている国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ理事は、11日下院でこう証言しました。
翻って日本でもこのウイルスを「季節性インフルエンザに毛の生えたようなもの」と言う人が感染症の専門家という人たちの中に少なからず居り、いまだに自説を曲げずに「ウイルスの影響は限定的なので、経済が崩壊する前にイベントの自粛などは止めるべきだ」という声が高くなっています。
しかし、マッキーニ医師はこれになんと言うでしょうか。「医療崩壊」を招かないためには、今が踏ん張りどころだと思います。