子どもが生まれベビーカー生活が始まった頃、知らない駅に行くことが不安でしたーー。
子育て世代の方ならきっと、電車に乗車したくても大きなベビーカーを持っていると迷惑にならないか、また人目を気にしながらの行動だったりで、何かと不安になることも多いのではないでしょうか。
また、大きな駅では複数のエレベーターをうまく乗り継がないと目的のホームや出口にたどり着けないので、
「迷わないか」「そのうちに子どもがぐずり出さないか」と緊張することもあるでしょう。
そんな子育て世代からの声が届いたのか、東京メトロが今年、
各駅のエレベーター情報などをまとめたサイト「ベビーメトロ」を本格稼働させたといいます。
発信するのは「エレベーターがない」という情報。
これっていったいどういうこと?あえて「ない」情報を発信するアプリ、生まれたきっかけなどについてまとめていきます。
「ベビーメトロ」とは?
「ベビーメトロ」とは、ベビーカーを利用するお客様が抱える「あの駅、ベビーカー大丈夫かな?」 という不安解消を目的に、
簡単に東京メトロ駅の「エレベーター有無」「乗車位置」「駅構内図」を調べられるWebアプリです。
東京メトロは今年7月29日、試験提供中のベビーカー向けルート案内サービス「ベビーメトロ」の正式提供を8月1日に開始すると発表しました。
ベビーメトロは、利用したい駅名を検索すると「地上から駅のホームまでエレベーターだけで移動できるか」「他の路線への乗り換えにエレベーターが使えるか」「ホームベンチやおむつ替えのスペースがあるか」などが容易に調べられます。
きっかけは妻の一言だった
東京メトロ社員で、いま0歳と3歳の2人を子育て中の横溝大樹さん(31)は、
4年前、妊娠中の妻と一緒に地下鉄に乗ろうとした時、こんなことを言われました。
「案内がたくさんありすぎて、知りたいことがわからないよね」
妊娠の影響でにおいに敏感になっており、人の少ない列車内の「ベビーカースペース」に乗車しようとした横溝さんの妻。
しかし、なかなかそれは見つけることができず、エレベーターが見つからず右往左往したこともあったといいます。
妻の出産後も、そうした経験が続いたといいます。
「駅で『いま知りたい』情報がぱっと見つかる状態ではありませんでした。そのことで身近な人がこんなに困っているなら、自分にできることはないかと考えました」
提案が採用される
こうした自身の経験を機に、横溝さんは社内で新規事業の公募があったのに応じて、
駅で困らないようさまざまな情報をスマホで調べられるサービスを提案したといいます。
その後、見事に提案は採用されることとなり、新規事業企画担当の天野純一さん(40)、
文書・株式課の坂田麻美さん(29)との3人チームでサービス開発が始まったといいます。
「そもそも利用者の不安な気持ちがどこから来るのか、3人で何度も話し合い、根源的な問題を掘り下げました。答えは『段差(階段)がある』ということでした」
そこで第3の方法として考えたのが、「段差がある」「エレベーターがない」といった情報の提供でした。
そうした情報をあらかじめ知っていれば、利用者が「エレベーターのない駅を避ける」「ベビーカーを抱えて階段を上ることを織り込んで、荷物を減らして出かけるなど心構えする」といった事前の対策をできるのではないか、と考えたと横溝さんらは言います。
どんな情報がリサーチできるのか
従来であれば、この駅にエレベーターが『ある』という情報は発信することが多かったのに対し、
あえて『ない』ということを積極的に発信するという方策。
会社としては『ある』という情報を見せたいものだが、利用者に『ない』という情報を伝えることに大きな効果があるのではと考えたと話します。
ベビーメトロで調べられるのは、駅ごとの次のような情報です。
(1)「地上・ホーム間」「乗り換え」がエレベーターのみで移動できるか
(2)おむつ替えできるトイレの有無(そのトイレにはエレベーターのみで行けるか)
(3)ホームのベンチの有無
(4)乗り換えに便利な乗車位置
(5)周辺地図(エレベーター・スロープのある出口を明示)と構内図
シンプルなアプリが完成
一般的な商品やサービスと違い、誰もが使う鉄道の顧客は、「こういう人」という限定ができません。
そのため、「全員に全部の情報をまんべんなく届けよう」としがちで、その結果、誰かに必要な情報が抜け落ちてしまいます。
一方、ベビーメトロは、情報のデコボコの穴を埋められるよう、「限られたターゲットに深く突き刺さる情報」を届けることを目指したといいます。
文書・株式課を担当する坂田さんは、サイトのデザインに関しては、
病院などのシンプルなアプリを参考にしたといい、ベビーメトロは『△』や『×』などを使用し、
あえてざっくりした記号でわかりやすい情報発信を提供すると話してくれました。
また、それらの項目を開くとさらに具体的な情報を見ることができる仕組みとなっているそうです。
2年前に試行として始まった「ベビーメトロ」は非常に好評だったようで、これらのサービスを夏には本格化。
サイトを利用した人はベビーカー利用者が87%、女性が70%強、30代が50%で、子
育て世代が圧倒的に多いという結果が出たといいます。
今後はお年寄りや障害者にも…
ベビーメトロの開発者である3人も、これまでに何度か駅で迷うという経験があったそうで、
開発チームは、ベビーカーだけでなく、お年寄りや障害者の方にも便利なサービスであると考えていて、
今後はそうした方向への発展も視野に入れているといいます。
東京メトロがこうしたサービスを必要としたのには、地下鉄ならではの事情もあるといい、
新たにエレベーターを設置しようとしても、出口にあたる部分に既に建物が建っていることがあり、
「エレベーターがない」場所が少なくありません。
また、外の景色が見えず、どちらを見ても同じ白い壁であることも、方向感覚を失いやすい原因のようです。
ベビーメトロが情報のデコボコの穴を埋めたように、サイトだけでなく、
今後のさらなる課題として、駅構内の表示もわかりやすくなって欲しいと思いますね。