カナダ北東部に広がるハドソン湾。あまり知られていないことだが、この123万平方kmにも及ぶ広大な湾は、40年もの間「重力の影響が少ない反重力場」として科学者たちを悩ませてきたミステリースポットでもあるのだ。
ハドソン湾の反重力現象
写真:wall.kabegami.com
英紙「Express」(11月17日付)が、ハドソン湾が重力を喪失している理由が科学的に説明されたと報じている。不可解すぎる現象のため、ハドソン湾内に異次元ポータルがあるのではないかと噂されたこともあるが、本当の理由とは一体何だったのだろうか?60年代に地球上の重力測定が開始されて以来、ハドソン湾の重力が弱いことは知られていたが、長い間その実態は謎に包まれてきた。しかし近年の研究によって、ハドソン湾の重力異常には2つの要因が絡んでいることが分かってきたという。
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1つは、「ローレンタイド氷床」。ローレンタイド氷床とは、7万年前~1万年前の最終氷期に、現在のカナダとアメリカの大部分を跨ぐように形成された、厚さ3.
2~3.
7kmもの巨大な氷の塊である。その大部分は約1万年前に氷解し、地表から消えてしまったが、長年堆積した分厚い氷が地面に食い込み、深い溝を刻み込んだことで(地殻の圧縮)、重力さえも“捻じ曲げて”しまったというのだ。おそらく、窪んだ地殻を元の平らな状態に戻すため、窪みの側面を横方向に引っ張る重力がかかることで、垂直方向の重力が弱まるのだろう。ちょうどスポンジの窪みが元に戻るように、氷解によって年間1.2cm~1.
7cmほど地面は元の位置に戻りつつあるが、重力が通常値に復帰するには、あと5千年ほどかかると見積もられている。だがローレンタイド氷床が重力に与えた影響力は、実はそれほど大きくないことが近年分かってきた。重力場を歪めていた大きな要因は氷床のさらに地下にあったのだ。「マントル対流」が重力を歪めていた
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米「ハーバード・スミソニアン天体物理学センター」の物理学者らが、NASA(アメリカ航空宇宙局)とDLR(ドイツ航空宇宙センター)が共同で打ち上げた、重力場観測用人工衛星「GRACE」の詳細な観測データ(2002年4月~2006年6月)を調査したところ、ローレンタイド氷床がハドソン湾の重力場に与える影響は全体の25~45%に過ぎず、残りの55~75%を占める大きな要因はハドソン湾地下の“マントル対流”にあることが判明したという。地表から160km地下を流れる灼熱のマグマが対流を引き起こし、大陸プレートを引き下げることで、その部分の質量が減少し、同時に重力も弱めているそうだ。
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この他にも、巨大隕石がハドソン湾内部に巨大な空洞をつくったことが主要な原因とする「隕石説」や、「異次元ポータル説」など諸説あるが、とりあえずのところ科学的な原因究明はここまでとなりそうだ。
まとめ
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特異な重力異常に目をつけ、お手軽ダイエット目論む人々がハドソン湾に殺到することもあるそうだが、実は重力に変化が見られる場所は世界中に点在している。重力は基本的に、質量に比例する。質量が大きければ重力も強くなり、質量が弱ければ質量も弱くなる。そのため、山岳地域や岩が多い場所などは、標準重力(9.
8m/s2)よりも重力の影響が強くなる。また、遠心力の影響を大きく受ける赤道付近などは重力が弱くなるため、日本国内で最も重力が弱い場所は、赤道に最も近い沖ノ鳥島だといわれている。