奇跡の詩人、と聞いてだれかの名前を思い出しませんか。
2002年、ある番組でその詩人が紹介され、一大ブームを引き起こしました。詩人の名前は日木流奈くん。まだ11歳の少年だったのです。それだけではありません。彼は重度の脳障害と身体障害をもち、ほとんど寝たきりの生活を送っていたのです。
そんな彼が言葉を紡ぐ方法は、たったひとつです。特製の文字盤があり、母親を介してコミュニケーションを行い、詩を書いていると言われていました。
奇跡の詩人の詩の書き方とは
写真:YouTube
日木流奈くんの詩はある放送局のドキュメンタリーとして放送され、その詩に心を動かされた視聴者から大きな反響がありました。
他のマスコミや雑誌にも奇跡の詩人として特集され、11歳とは思えない深淵な世界の詩に感動した人は多かったことでしょう。
ところがこのドキュメンタリー番組の放送と同時に、放送局には問い合わせの電話が殺到しました。それは日木流奈くん自身が、本当に自らの意思で言葉を紡いでいるようには見えないという指摘だったのです。
日木流奈くんの詩の執筆スタイルは、オリジナルの文字盤を使用したものです。日木流奈くんが書きたい文字を文字盤で指そうとする動きを、母親が素早く読み取ることで口述筆記が可能であると番組では放送されていました。
日木流奈くんは3歳から障害の民間療法であるドーマン法を使っていました。
写真:天才児をつくる幼児教育&早期教育
このドーマン法というものはアメリカで生まれた方法で、文字盤を使うことで障害を持った人とのコミュニケーションを可能にするといったものです。日木流奈くんはこれを応用した手法で詩を書いているとのことでした。このことはドーマン法が脳障害の治療法として有効であるとも考えられ、大きな反響を呼ぶことにもなったのです。
ドーマン法によって脳障がい者が、他人とコミュニケーションをとることができるまでに回復できるとすれば、それはドーマン法が有効な治療法であるということになります。
ドーマン法と奇跡の詩人への疑問
写真:Goo ブログ
しかし、このドキュメント番組には「日木流奈くんの手を母親が握り、まったく同じタイミングで母親が日木流奈くんの手を動かしている」「息子があくびをしたり、眠っているときやよそ見をしているときでも母親が正確に文字盤を動かしている」「混沌など子どもでは知らないような単語が出てきたり、間違いのない丁寧体の文章を正確に作ることは11歳では不可能ではないか」という指摘が殺到しました。
写真:Yahoo!ブログ
写真:SOHO
つまり、日木流奈くんの詩ではなく、母親が文字盤を母親の意思で動かしているだけで、その言葉は日木流奈くんの詩ではないという疑惑が発生したのです。
番組にこのような批判が多く寄せられたことを受け、放送局では特別会見を行いましたが、謝罪の言葉はありませんでした。
これに対して日本小児科倫理委員会は番組内で紹介されている治療法の信ぴょう性などについて放送局に公開質問状を送りましたが、返答はいまだにありません。
しかし、海外などで放送される予定であった奇跡の詩人についての番組は、相次いで放送が中止となりました。
さらに批判がされたのは、母親が日木流奈くん以外の兄弟姉妹に対しての態度でした。日木流奈くんは重度の脳障害を患っているため、身体を動かすことができないのですが、そんな彼を乱暴に触ってはいけないと母親が過剰に怒り、部屋から追い出すシーンに関しては児童虐待ではないかという問題も提起されました。
まとめ
写真:又吉 千恵子の日々是好日
現在、日木流奈くんは奇跡の詩人として表立った活動はしていません。しかし、自分の家族の知り合いや仲間の間では文字盤をもって講演を行ったりしている様子がインターネットに掲載されています。
似たような事件として、全聾であるにも音楽アーティストとなった佐村河内守さんのエピソードも引き合いに出されます。
写真:cnn.co.jp
佐村河内守さんのドキュメント映画を撮影した森達也監督は、
写真:PABARABA NET
日木流奈くんの映像を見てドキュメンタリーとはどうあるべきかを論じ、多少の主観が入ることは仕方がないことではあるが、それであるなら徹頭徹尾真実であると伝え続けるべきだ、と述べています。