政府は、農林水産業・地域の活力創造本部(本部長・安倍晋三首相)の会合を開き、日米貿易協定の発効などをにらみ、国内農業の基盤強化策を盛り込んだ新計画をまとめました。
2018年に14・9万トンだった和牛の生産量を、米国や中国への輸出拡大が見込まれることから、2035年度に30万トンに倍増させるのが柱となりました。輸入品と競合する加工・業務用野菜の出荷にも力を入れ、農家への支援を手厚くする予定です。
日米貿易協定で来年から米国向けの低関税輸出枠が大きく広がり、中国とは輸出解禁に向けた調整が進んでいます。国内需要が人口減でしぼむなか、輸出をてこに成長をめざす目論見です。
首相は会合で「成長産業化をさらに進め、若者が夢や希望を持てる農林水産新時代を切り開いていく」とあいさつしました。増産に向けて今年度補正予算では、畜舎の増築費などを補助する「畜産クラスター事業」の規模拡大の条件を緩和。子牛を産む雌牛を増やす際の奨励金も、飼育頭数にかかわらず一定額だった金額を頭数の少ない農家には積み増す方針です。
世界で高まる和食ブームのなかでも、和牛需要はとりわけ強く、米国向け輸出の低関税枠は今は年200トンですが、日米貿易協定が発効すれば最大年6万5千トンに広がると見られています。中国向け輸出も、日中両国は解禁に向けて安全基準などの具体的な条件を調整中とのことです。
農林水産省が2007年に発表したガイドラインによると、「和牛」と表示できる牛肉は、以下の4品種とその交雑種であることが家畜の登録制度で確認でき、かつ牛トレーサビリティ制度により国内で出生、飼育が確認できることが条件となっています。
和牛は、1990年代から東南アジアの富裕層向けに輸出され、一定の消費者を獲得していました。しかし、2010年に口蹄疫、2011年に原発事故が発生したことで市場を失いました。和牛が輸出できなくなった間に、米国やオーストラリアで「外国産WAGYU」が生まれ、シンガポール、香港、タイなど東南アジア諸国の高級レストランなどで提供される肉の多くはオーストラリア産に置き換わりました。今や、海外で「WAGYU」と言えば、「日本産牛肉ではなく、高級牛肉の代名詞」となっています。
オーストラリア産WAGYUの霜降りは、和牛にかなり近づいてきているといいます。
和牛の肉質は「霜降り」、「肉の色沢」、「肉の締まり・キメ」、「脂肪の色沢・質」の4項目について、各5段階(かなり良いの5から劣るの1まで)で評価していますが、最も重要なのは霜降りの度合い。和牛を100とすると、オーストラリア産WAGYUは50程度。しかし、50を超えたというのはとても凄い事なのだと、業界関係者達が驚く程です。
日本政府は2013年以降、和牛の輸出促進に取り組んでいます。今回の発表も、その延長線上と思われます。
今現在も、世界各地でセミナーや試食会などを開催しており、原産国として“ジャパン・ブランド”を示す和牛統一マークを策定するなど売り込みに懸命です。しかし、肉質でそれほど見劣りしない上、価格も半額程度のオーストラリア産WAGYUから市場を奪い返すのは容易ではないでしょう。
和牛の行く末はどうなるのでしょうか。