台風19号が東日本を縦断した13日、青森県大間町の大間崎近くの津軽海峡では、長い膜を持ったタコのようにも、イカのようにも見える奇妙な軟体の生き物が見つかりました。
地元漁師の竹内薫さん(69)が午前6時半ごろ、岸から5、6メートルほどの場所でコンブ漁をしていた際に海中を漂っていました。長さが2メートルはある薄くてピンク色の膜が足の間にありましたが、「タコだと思って」つかまえた際、膜はちぎれて短くなったといいます。
経営する食堂の水槽に入れてみると体は先頭が砲弾状で長さが50センチほどあり、イカのような足がありました。足と足の間から伸びた薄い膜には斑点模様があり、コンブのような茶色っぽい色合いに変わっていました。
写真と動画を確認した浅虫水族館は「ムラサキダコ」だろうとみています。この時期たまに捕獲される例がありますが、食用にはあまり向かないといいます。竹内薫さんは、体内にたくさんの卵を抱えていたことから「元気なうちに」とその日のうちに海へ帰しました。
ムラサキダコのマント状の皮膜は、まさに羽衣を彷彿とさせる美しさです。そのために、ハゴロモタコと呼ばれることもあります。聖獣とか神の使いとか、UMA的な何かに見間違ってしまってもしょうがないのかもしれないくらいにムラサキダコのメスが泳ぐ姿は巨大で優雅だそうです。
この優雅な羽衣は、タコならではの長い腕の間に張られた皮膜です。ムラサキダコは危険を察知するとこれを広げて近寄ろうとする捕食者などの外敵を威嚇します。
もし相手が怯まなければ、皮膜をその口に押し込んで引きちぎって逃げてしまいます。トカゲの尻尾切りのように、捨て駒として使うのです。
ムラサキダコの特徴は、メスが全長2メートル近くにもなる一方で、オスは見つけるのも難しいくらいちっちゃいということです。オスはなんと3センチにも満たないのです。体重差にしてみると1万倍から4万倍もの開きがあるそうです。
なんでもちっちゃなオスはメスの瞳孔の中にうまい具合に収まるそうです。メスにしてみたら、目に入れても痛くないほど可愛いってことなのでしょうか⁇
オスがメスの目の中に入ることを発見した研究者の考えでは、大きくなる明確な必要性がなかったからだといいます。メスの場合、体を大きくする明確なメリットがあります。体が大きい方が卵や子供をたくさん産むことができ、それだけ遺伝子を後世に伝えやすくなります。
ところがオスが遺伝子を後世に伝える手段は極小の精子です。そのため、あえて体を大きくする必要がないのだそうです。ムラサキダコのオスは海でメスに巡り会えたら、足を残します。そこに精子をつけて切り離すと、メスの外套腔へ忍び込ませ、自分はさっと逃げてしまいます。メスは自分の卵を受精させたいと思ったときに、体内のオスの足を取り出して、精子をふりかけのようにまぶします。
ムラサキダコのメスは優雅な羽衣で美しさを競い、ときに複数のオスから精子のプレゼントを受け取る奔放な存在です。一方、オスは目的を遂げると死んでしまうのです。