動物が人を襲う映画は、昔からたくさん作られています。小さなものから大きなものまで、さまざまな動物がこれまでにどれだけの人間を襲ってきたか、想像がつきますか。
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小さなもので言えば「黒い絨毯」の蟻。ラストシーンが印象的な「巨大クモ軍団の襲撃」は、そのまま蜘蛛。「キラー・ビー」や「スウォーム」は蜂。ゴカイが襲いかかる世にも恐ろしい「スクワーム」。大きなもので言えば、何と言っても巨大な鮫が暴れまくる「ジョーズ」シリーズ。鮫に関しては、近年では「シャークネード」シリーズのように荒唐無稽の極みのような映画も。「グリズリー」は熊、動物園の動物たちが凶暴化して街に出てきてしまう「猛獣大脱走」なども、グロテスクな見せ場が満載の怪作でした。他にも、犬、猫、猿、ライオン、蛇など枚挙にいとまがないとはこのこと、というくらいに、地球上のありとあらゆる動物たちは暴れまくっているのです。
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そんな中でも、ワニは、一つのジャンルをなすほどの人気のキャラクター。動物パニック映画の中では名作として名高い「アリゲーター」を筆頭に、イタリア映画の豪快さが圧巻の「キラー・クロコダイル」シリーズや、「レイク・プラシッド」シリーズも捨てがたい魅力があります。さて、得てしてこういう作品は安易にシリーズ化されるのが常ですが、そんななかで孤高の魅力を放つ作品が、突然現れてくるものです。そんな一本が、この「マンイーター」。何故この作品が、孤高な魅力を放つのか。その理由は単純にして明快なもの。「マンイーター」が、他のワニ映画に比べると格段に面白いからに他なりません。
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こういうキワモノとも呼ばれるようなジャンルの映画に、そもそも名のある俳優はあまり出演しません。しかし、全くの無名俳優が並ぶジャンルにおいて、この映画では、出演者のトップにラダ・ミッチェルの名前があります。ヴィン・ディーゼル主演の「ピッチブラック」で鮮烈な印象を残し、「サイレントヒル」では呪われた街をさまよう母親を好演。ジャンルファンにはおなじみの女優であり、何よりも美しい。そしてサム・ワーシントンが出ているのも注目ポイント。実は彼がアメリカでスターになるのは、この作品の後のこと。それでも彼が出ていることで映画の価値はぐっと高まっています。そしてテレビ「エイリアス」で、ジェニファー・ガーナーに翻弄されまくっていたマイケル・ヴァルタン。彼が実質的には主役です。彼の線の細さが、映画をよりスリリングにさせているのは間違いなく、果たして本当に最後まで生き残れるのかという不安が付きまといます。
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加えてミア・ワシコウスカが出ているのも驚き。彼女のとってはキャリアのスタートのような映画です。このように、意外や味のある出演者が揃っているところが魅力の一つなのです。これの何が魅力かというと、彼らはちゃんとした一流の俳優であるということ。巨大なワニが人を襲うという、いわばバカバカしさの度合いが高い映画では、俳優がきちんと芝居が出来るかどうかで、中身が確実に違ってくるのです。絵空事の度合いが高ければ高いほど、映画の細部にはリアルさが必要となります。それが、観客に恐怖を実感させるために絶対的に必要な要素なのです。彼らはそれを十二分に引き出すだけの力量があり、事実、映画は他のワニ映画をよせつけない圧倒的にパワーのある内容になっています。
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とはいえ、全体としては地味な印象ではあります。しかし、クルーズ客たちのエゴが丸出しになる展開は苛々と同時にスリルを呼び、地道な描写の積み重ねは、巨大ワニの襲撃をサスペンスたっぷりに描き出していきます。そしてクライマックス。あの巨大ワニを相手に一人で向かい合う絶望感の凄まじさ。こんなに味わいのあるワニパニックは、そうありません。「マンイーター」には、動物パニックというキワモノ映画の楽しさと、まっとうなサスペンス映画の醍醐味が組み合わさった、他にない魅力があるのです。