皆さんが普段何気なく使っている「わらしべ長者」という言葉。知っている方も多いでしょうが、実は日本の昔話から生まれた言葉なのです。今回はこの『わらしべ長者』のストーリーをおさらいしてみましょう。昔、あるところに貧しい若者がいました。若者は生活の貧しさに耐えられなくなり、御堂の観音様に助けを求めて何日もお祈りし続けました。するとある晩、若者の夢枕に観音様が立ち、こう告げたのです。「明日お前が最初に手に掴んだ物を大切にしなさい。そうすれば必ず良い事があります。」次の日、若者は外に出た途端、小石につまずいて転んでしまいました。そして起き上がってみると、いつの間にか手に1本のわらしべを掴んでいたのです。若者は観音様に教えられた通り、そのわらしべを大事に持って歩いていきました。すると、若者の顔のあたりをアブがブンブンとうるさく飛び回り始めました。若者がいくら追い払っても、アブはちっとも離れていきません。とうとう若者はアブを捕まえて、わらしべの先に結びつけてしまいました。
写真:i.ytimg.com
しばらく経って、若者のそばを牛車が通り掛かりました。すると、牛車に乗っていた男の子が若者の持っていたアブを見て、「あれが欲しい!」とぐずりだしました。その様子を見た若者はアブを結びつけたわらしべを男の子にあげることにしました。男の子の母親はとても有難がって、お礼にみかんをくれました。若者は、「わらしべ1本が立派なみかん3個になってしまった。これも観音様のお陰に違いない。」と喜びます。
写真:i.ytimg.com
こうして、若者がみかんを抱えて歩いていくと、道端に女の人がしゃがみこんでいました。そして、女の人の家来が若者に聞きました。「この辺りに水がある所はありませんか?主人が喉が渇いて苦しんでいるのです。」若者は女の人を気の毒に思って、「良かったら、このみかんをお食べてください。」と抱えていたみかんを差し出します。女の人は若者から貰ったみかんを喜んで食べました。そして、見事な3反の布を取り出して、若者に言いました。「ありがとうございました。助けていただいたお礼に、どうぞこの布をお持ちください。」若者は、「わらしべ1本がこんな立派な布になってしまった。有難いことだ。」と喜びます。
写真:s.webry.info
こうして、若者がまた歩いていくと、道の向こうから立派な馬に乗ったお侍がやってきました。ところが、若者の近くまで来た途端、急に馬が苦しそうに暴れだしたのです。そしてしばらくすると、ばったりと倒れてしまいました。しかし急いでいたお侍は、馬の始末を家来に言いつけると、歩いて去っていきました。残された家来達は困り果てます。するとその様子を見ていた若者は、家来達に言いました。「良かったら、この布と馬を取りかえてくれませんか?」倒れて動けない馬と、立派な布を取りかえてもらえると言うのですから、家来達は大喜びです。家来達と別れると、若者は倒れている馬に何度も水を運んでは飲ませました。すると、みるみるうちに馬は元気になり立ち上がりました。若者は、「わらしべ1本がこんな立派な馬になってしまった。有難いことだ。」と喜びます。
写真:amazon.co.jp
こうして若者は、今度は馬に乗って進み始めました。しばらく行くと、大きな屋敷が見えてきました。屋敷では引っ越しの真っ最中で、大勢の人々が荷物を運んで大騒ぎしていました。そこで若者は考えます。「引っ越しの時なら、この馬を買ってくれるかもしれない。」若者は屋敷に入っていき、屋敷の主人に言いました。「この馬を買ってくれませんか?」立派な馬を見た主人は、馬を買うことを快諾し、こう言うのです。「あいにく今はお金が無いので、この馬と私の田んぼを取り替えてはくれませんか?」若者は願ってもない話に喜びます。さらに主人は、「私が居ない間、屋敷に住む者が居ないので、留守番をしていて欲しい。」と若者に頼みます。元々、何も持ってはいない若者でしたから、喜んで留守番を引き受けました。
写真:spi-con.com
こうして、若者は屋敷に住み、田んぼを耕して働くようになりました。しかし、何年経っても屋敷の主人は帰って来なかったので、とうとう屋敷も田んぼも若者の物になったのです。若者は、「わらしべ1本がこんなお屋敷と田んぼになってしまった。これも全て観音様のお陰だ。」と喜びました。そして、いつしか人々は若者を「わらしべ長者」と呼ぶようになり、若者は結婚していつまでも幸せに暮らしました。以上が、『わらしべ長者』のストーリーです。いくら働いても豊かな暮らしが手に入らない庶民。この昔話にはそうした人々の幸福を願う心が込められているようです。