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闇サイト殺人事件という名前がつけられた事件を覚えている方は少ないかもしれません。しかしその陰惨な内容は、一度聞いた人であればすぐに思いつくことでしょう。
2007年名古屋で発生した強盗殺人事件の俗称が闇サイト殺人事件です。闇サイト、というのは当時インターネットで闇の職業安定所というサイトがあり、そこで強盗の仲間をつのった3人が主犯であったことから名付けられたものです。別名、愛知女性拉致殺害事件とも呼ばれています。
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闇サイト殺人事件は、主犯である男とインターネット闇サイトで出会った男2人の合計3名が、実際に出会い強盗を企てたことがきっかけとなります。彼らはネット上でしか認識がなく、互いの本名も知らないままホームセンターなどでハンマーなどの凶器を購入、その後実際の犯行に及びます。
2007年8月、名古屋市千種区を歩いていたOLに犯行グループが声をかけ、OLが振り向いたところを車内に強引に拉致。そのままキャッシュカードを手にし、暗証番号を言わせて現金を奪う予定でした。しかしOLは気丈にも暗証番号の本当の番号を言わず、犯人3名の計画は頓挫することとなります。
この口止めが必要だと考えた犯人グループは、OLを山の中に連れていき、首を絞めて殺そうとするも失敗。必死の抵抗を見せるOLでしたが、最後はハンマーで何度も殴打され、殺害されました。この無残な様子は遺族であるOLの母が記者会見などで話をしています。死後、初めて会えた娘の姿。それは顔だけが出され、他は青いビニールマットで覆われており、姿が見せられない状態であったことや、顔がひどく膨れ上がり、あまりに痛そうなので抱きしめることができず、なでることしかできなかった状態であったことを伝えています。
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結局、この事件は3人のうちの1人が「死刑にされたくないから」という理由で自首をすることで犯人グループが逮捕されることとなりました。当然、遺族の方々は3人ともに極刑を求めます。ところが、ここで司法の壁が立ちはだかるのです。これが現行の死刑制度の抜け穴として疑問に残ることとなりました。
今回の被害者は1名です。それにともない、死刑判決を言い渡すことができるのも1人でよい。これが司法の通常事例だったのです。しかも一人は自首してきたことにより、情状酌量の余地があるとされています。「殺害された被害者数が1人であり、殺害方法も他の死刑事件と比べて残虐性が低い」。これが死刑判決を免れる基準とされる永山基準と呼ばれる法の抜け穴です。
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このことについてOLの母はのちに「私たちの敵は犯人の次にこの国の司法そのものでした」とコメントしています。結局この裁判は最高裁までもつれ込むこととなりました。命は数ではなく、ひとつの命として重さで考えるべきではないのか。それとも司法は今までの基準を守るのか。行方が注目される裁判でした。
判決は主犯である1名には死刑。2名は無期懲役として判決が下りました。しかし、主犯はもともと死刑であることを一審で自ら受け入れており、罪の意識がない、被害者には気の毒としかいいようがない、など罪の意識が皆無であることを示していました。残りの2名については、永山基準を持ち出したり、今までの判例に違反するとのことで無期懲役と決まってしまいました。
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今でもこの判例に納得がいかないと訴えるOLの母親は、インターネットや街頭で法律制度の見直しを求めるための署名活動を行っています。3名を死刑にできなければ、娘の仇をとったことにならない、と強い口調で記者会見に臨む姿はマスコミで大きく取り上げられました。
今後、日本の死刑制度のこの抜け穴は変わっていくのでしょうか。命の重さとは、命の数とは何と比べられるものなのでしょうか。大きい謎を問いかけたまま、闇サイト殺人事件は終結を迎えたのです。