映画「キャタピラー」は戦争に翻弄される夫婦の姿を通し、戦争がもたらす悲劇を描いた作品です。寺島しのぶさんが出演し、「ベルリン国際映画祭」において最優秀女優賞である「銀熊賞」を受賞しました。あらすじは、1940年農村に住む青年である黒川久蔵は日中戦争において戦地へ赴き、その後久蔵は四肢を失ってしまい、まるで芋虫(キャタピラー)のような姿で村に帰ってきます。
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体だけでなく声を傷つけてしまい話すこともできず、聴力もほとんど失っていました。村人は久蔵を「軍神様」として崇めますが、彼の親戚たちは久蔵の世話を寺島しのぶさんが演じる妻のシゲ子に押し付けるのです。シゲ子は久蔵といっしょに無理心中をしようと思いますがやめ、妻として懸命に尽くすように決めます。畑仕事に行く時、リアカーに久蔵を乗せ、「軍神様」を村人に会わせていました。
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久蔵は非常に欲深い暴力的な性格で、彼は残された身体の知覚によって自分の意思を伝えます。戦争から帰ってきても、強欲さは変わらないままでした。久蔵は美味しい食事や自身の名誉を誇示したり、夜の営みもシゲ子に激しく要求します。しかし、久蔵は発作的な錯乱状態にたびたび陥り、次第に夜の営みもできなくなってしまいました。実は久蔵は戦地において中国人少女を襲った上、虐殺した記憶があり、その罪悪感に苛まれていたのです。
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そのことを知らないシゲ子は、子供の産めない自分への嫌みだったり、女性としてもう飽きてしまったのかという思いから、以前暴力によって自分を支配していた久蔵への憎悪や怒りが爆発し、気性が激しい本性をあらわにするようにシゲ子は久蔵を責めるのでした。一方、まったく抵抗できない身体の久蔵は、シゲ子の姿が以前の自分の姿と重なり、次第に正気を失っていきます。
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ある日、シゲ子が畑仕事をしていると、村人が大きな声で「戦争が終わった」と叫んでいるのを聞きました。シゲ子も晴れ晴れとした顔で喜びます。しかし、その頃、久蔵は自宅からまるで芋虫(キャタピラー)のように、泥にまみれながら這い出し、庭の池に向かっていきます。自分の顔を池の水面で初めて見て、醜く変形してしまった顔を眺めます。そして少しずつ久蔵は池の中へと進んでいくのでした。この作品では寺島しのぶさんの熱演を見ることができます。戦争の惨さや残虐さを感じる映画で、キャタピラーとなってしまった夫に苦悩する久蔵の妻を見事に演じている作品です。
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