広島の焼け野原を見つめる、若いカップル。昨年8月6日。Twitter上で、そんな「カラー写真」が話題を呼びましだ。
撮影日は原爆投下から1年後、1946年8月6日とされていたが、詳細はわかっていませんでした。
この写真が福屋百貨店の屋上で、共同通信社の企画として同年「8月5日」までに撮影されたものであることが、このたび判明したそうです。
「場所は胡町の福屋百貨店から南東方向を俯瞰したもの。後方の山は広島湾の金輪島。カップルの頭上に写っている新築の建物は旅館で、現在は改築され、飲食店として残っている」とのことです。沼田さん、本当にありがとうございました! pic.twitter.com/g075dhdowI
ADVERTISEMENT — 渡邉英徳 (@hwtnv) March 19, 2019
そもそもこの写真は、東京大学の渡邉英徳教授が取り組んでいるプロジェクトの一環でカラー化されたものです。
人工知能を使った自動色付け技術で蘇った、かつての景色だ。アメリカ公文書に存在したものをカラー化したものだといいいます。
「72年前の今日。1946年8月6日,広島原爆投下から1年後,広島市内に残る焼け野原を若いカップルが見つめる」
この渡邊教授のツイートは1万8千件以上リツイートされ、話題になりました。「映画のよう」「こうやって復興していったのか」などというコメントが集まりました。
映画『マイマイ新子と千年の魔法』やテレビアニメ『名犬ラッシー』、『BLACK LAGOON』シリーズなどを手掛けた片渕須直監督による、2016年に公開された映画があります。昭和19年(1944年)に広島市江波から呉に18歳で嫁いだ主人公すずが、戦時下の困難の中にあっても工夫を凝らして豊かに生きる姿を描いている作品、『この世界の片隅に』。この映画の主人公夫婦になぞらえて、「リアルすずさん・周作さんでは」というような声も上がっていました。
詳細がわからなかったこのカップルの写真について、正確な情報を渡邊教授に寄せたのが、共同通信社ビジュアル報道局の沼田清さんでした。
その情報から、写真は共同通信社のものであることがわかったといいます。「被爆1周年・終戦1周年」に向けた企画取材の一環で、全国各地で撮影されたうちの1枚だったのです。
撮影場所は、福屋百貨店(現・福屋八丁堀本店。広島市中区胡町)。1938年(昭和13年)に完成した8階建ての店舗です。
原爆で建物の内部は破壊されたが外郭は残り、戦後の復旧作業を経て、現在も店舗として使われている「被爆建築物」。「白亜の殿堂」といわれた戦前の姿は、映画『この世界の片隅に』にも登場します。
そこから南東方向を俯瞰したもので、撮影日は配信された「1946年8月5日」より以前といいます。
さらに、カップルの頭上には新築の旅館が写っていますが、この建物も改築され、いまも飲食店として残っているそうです。
実は、同じ場所から撮影したさらに1年後の写真も存在します。
アメリカの写真雑誌「LIFE」が撮影した写真で、撮影日が1947年8月とされています。これも、渡邊教授がカラー化をしているのです。
その一年後,1947年8月に撮影された写真を「LIFE Archives」で見つけました。写真家はCarl Mydans。1年でここまで復興するんですね。ニューラルネットワークによる自動色付け+手動補正。 pic.twitter.com/jlhsF4nPh2
ADVERTISEMENT — 渡邉英徳 (@hwtnv) April 29, 2019
原子野となった市街地には、真新しい建物が一気に増えていることがわかります。
たった1年で、大きく変わった広島。復興に向けて大きく進んでいく人々の息遣いが聞こえてくるようですね。
屋上で語り合っていたカップルは、この写真のどこで、どのような暮らしを営んでいたのでしょうか。そして一体、どんな未来を夢見ていたのでしょうか。
一連の写真には、「頑張ったんだ、ヒロシマ」というリプライも寄せられていました。